シャルロットゲンズブールが映画「なまいきシャルロット」でみんなを魅了したのは1985年のこと。 今年30歳を迎える彼女

は今、一児の母でもある。しかし、我々の記憶の中では、いつまでも少女であり続ける。虚像と現実のはざまに揺れ動くシャ

ルロットは、真夜中に本当の自分を見つける・・・。彼女の謎めいた魅力を、スペインの巨匠ハヴィヤヴァイアンロットが幻想

的に撮りおろしてくれた。

待ち合わせたホテルのロビーへ向かうと、シャルロットは隅のほうにひっそりと立っていた。洗いざらしのブーツカットジーンズ

にトレンチコートをはおり、髪の毛は無造作に結っている。私に気づくと、彼女は穏やかでユーモアを含んだ笑顔で迎えてくれた。

−日本に行ったことはある?

「ええ、映画の宣伝で何度か。一度目はたしか「小さな泥棒」か「なまいきシャルロット」の時で、そのころから好きな国です。

川端康成とか、好きな作家もいますよ」

−日本映画は?

「詳しくは知らないけれど、北野武は大好き! 「菊次郎の夏」がすごく良かった」

−以前どこかで「小説であれ何か別の作品であれ,ユーモアが欠如していたらすぐに気になってしまう」と言っていたけれど?

「ええ、でも小説の場合はまだまし。小説なら、気取っているのもまぁ許されるかな」

−ユーモアの欠如とは、気取りであると?

「私には同じことに思えます。一番うんざりするのは、映画の場合。気取っているとは限らないけれど、深刻ぶる作品。気分

がめいっちゃう。ドタバタ喜劇なら何でもいいというわけじゃないけれど、70年代のフランスのコメディは大好き!すごく面白い

もの」

ー今はその手の映画を作る人はいなくなり、重々しく強烈な心理ドラマが多くなったかな。

「そうね。70年代のコメディだって中には重苦しいものもあったけれど、それでもどこか慎ましやかで、優美なところがあった

わ。どうしてそういうものが消えてしまったのでしょうね。母もそういうコメディを
撮っているときはすごく楽しそうにしてた。人々

が深刻ぶらずに楽しんでいた時代だったという記憶が
あるの。今、何が欠けているのか、私にはわからないけれど、ユーモア

って、チャーミングさに結びつい
ていると思うけれど、今の映画はチャーミングじゃないものの方が多いようね」

ーイヴァンアタル監督と作った今度の作品はどういうものですか?

「チャーミングな作品なの(笑) コメディタッチで、編集作業もほぼ終わりかけていて、だけど音楽はまだ。でもいい出来。

俳優が「これは素晴らしい作品でうんぬん」とか言って出演作を擁護しているのを
聞くと反感を感じてしまうんだけど、今度の

この作品は心の底から褒めたいの。本当に誇りに思うわ」

−脚本は一緒に書いたのですか?

「いえ、私は全然。全部彼よ。「妻は女優」というタイトルなんです。私たちの実生活というわけじゃないけれど、面白いアイディア

でしょう」

−封切りはいつですか?

「9月です」

−ラッシュフィルムを絶対に見ないそうですね。

「ええ。ラッシュは絶対に見ないの。この作品以外はね! ラッシュを見るとどっと落ち込むんですもの。もっとうまくできた

はずなのにという気持ちにすぐなるから。でも今回は無理をして見た。だってイヴァンが
ラッシュのビデオを家に持って帰って

きたから、見たくてたまらなくなってしまって。それでも、何度も見返
してやっと、少しほっとできた感じ」

−意見を交換したり、コメントを述べたりするのですか?

「もちろん、意見は述べます。でも、あくまで女優としてね。彼はいろんなことに意見を求めてきて、それは当然なんだけれど、

だからといって共同作業とは言えないと思う」

−ところで、音楽はどういったものを聴きますか?

「クラシックが好き。昔ピアノを習っていたから、どうしてもこだわりがあるんです。古い音楽には懐かしい気持ちにさせられる

し。ロックも聴くけれど、今の状況に興味を持っているのはイヴァンの方で、いろんな
グループを教えてくれます。それから、

あんまり有名じゃないけれど、ジョンメイオールとか」

−60〜70年代のイギリスのブルースマンですね!

「大ファンよ! それからミュージカル映画のサントラも」

ー本は今、何を読んでいますか?

「フォークナーの「8月の光」」

−アートに関してはどの時代が好きですか?

「とくに好きな時代というのはないけれど、映画なら、70年代のアメリカ映画かな。すごく独特なところがあるわ。70年代の

ファッション回帰のことは知っているけれど、そういう点ではなくて、映画のスタイル
に独特なものを感じるんです」

ーあなたはファッションを信じる?

「ファッションを信じるとか、信じないとか、考えたこともないわ」

−なるほど、関心がないと。それはきっとあなたが境界にいるからなんだな。ファッションにどっぷり浸かっている人間というの

は、真面目なものだから。映画と同じで深刻なんだな。ファッションだってすごく深刻
なんだ!

「ええ、ファッションに真面目になんてなれないわ。だって私の人生じゃないんだもの」

−でも、時々モデルとなってファッション誌の撮影もしますよね?

「するけれど、だからといってファッションに身を捧げているつもりはないのよ。ファッションショーを見に何度も足を運ぶなんて

絶対にしないもの」

−でも、観に行くことはある?

「ひとりだけお気に入りのデザイナーがいるから、それは観に行きます。バレンシアガのニコラゲスキエールです。ニコラの

場合は、先に面識があって、そのあとで服を見せてもらったから」

−僕の印象としては、一般の人々は服の着こなしにしゃかりきになっていると思う。

「そうね(退屈そうに)。つまり努力を怠らないということ?」

−そう。これこれの服を着ることで何かに変身するために。たとえば普通、何かスタイルを選びますよね。あなただって

どんなブランドが好きかと、しつこく尋ねられるでしょう。それがダサいと思われているブラ
ンドだったりしたら、みんな驚くだろうし。

「なるほどね。でも、生き生きしていない服、あるいは過去を持っていない服には、興味がないの」

−じゃあ、蚤の市で服を買う?

「ええ、そういう時期もありました。私にとっては、服は長く着られることが大切なの。時を経た服がいいというわけね」

−モデルになった、たとえばイタリアン・ヴォーグのスティーブン・マイゼルなどのファッションの写真を見て思ったんですが、

どうも写真家たちはあなたを被写体にすると凝った複雑なことをしようとする傾向
があるようですね。

「スティーブン・マイゼルの時はおかしかった。 だって、全然私らしくない写真に仕上がったから、イヴァンですら私だと気づ

かなかったくらい。イヴァンは私がそんな格好をしているのが嫌でたまらないの。
でも私としては面白かった。あんな格好を

させられたのは初めてだったから。最近は写真家の好きな
ように撮らせているんです、それはファッションのためじゃなく、

写真のためよ」

ーところで、ご両親はあまりにも有名なアーティストですが、そのご両親ですら、すぐに認められたわけではありませんよね。

だからあなたも、マスコミに何を言われようが気にしないような強さを身に付
けたんでしょうか?

「そんなことは全然ないです」

ーでも世間的な評価は重要?

「重要よ。そうじゃないと、呪われたアーティストになっちゃう」

−でもその逆に、人々が考えることなどと無関係に、何かを成すのが大切なことではないでしょうか?

「もちろんそうね。私だって批評は全然読まないし」

−あなたは人工的な、流行によって作られた人物ではなく、あなた自身を演じているんですね。

「昔から今にいたるまでいつでも直感的に、自分に無理することなく演じてきたし、それが自分には合うの。あまりに自分とは

かけ離れたことをやりすぎると、気持ちがしっくりこないんです。私にとって
一番大切なのは映画作品そのものだけど、それ

以外にいろいろと義務があって」

ー義務とは?

「映画の宣伝。自分のことについて語ったり、どういう作品を作りたかったか語ったりしなければならない時期がどうもつらい

んです。そうすると話が凝縮されすぎて、実態とはかけ離れたものになって
しまうし、そういうことを喋るのも馬鹿みたいだし。

でもそんなのは本物の人生じゃないわ」

−映画や、撮影がですか?

「いいえ、インタビューが」

−確かにジャーナリストはインタビューを材料にして、さらに新たな質問をひねり出したりしますよね。

「ええ、こんなことを言うのは失礼かもしれないんだけれど、そういうものに何の意味があるんでしょう。それに、話題によって

は私は面白いことなんて言えやしないというコンプレックスもあるし。私の
発言に相手はがっかりしちゃうんじゃないかなって

思えてしまうの。とにかくインタビューって私には
向かない。喋るのや、自分をさらけ出すのが好きで、すごく上手にこなす人も

いるわ。私だってこう
いう仕事についているんだから好きなにょ。嫌いだなんて言ったら偽善的だわ。でもいつも限度をちょっと

超えてしまうのよね。自分をさらけ出す限度を、どうも少し超えているんじゃないかという
気持ちに、いつもなってしまうのよ(笑)」

ーでは、どの限度を超えないように務めましょう。

「でもそんなことを言う私もなんだか深刻ぶっているみたい。まぁ、軽くいきましょうよ(笑)」


ー話題は変わりますが、絵の勉強をしたことがあるんですか?

「ええ。バカロレア合格後、まだ女優になる決心をする前に。1年だけだけど、すごく面白かった」

−息子さんのベンを描いたりしますか?

「いっぱい描いてます。それもいつも同じ状況で、というのはあの子が眠っている時だけね。私は描くのが遅いから、動か

ないでいる時、つまり眠っている時じゃないと描けないんです。でもいつも
だいたい同じ絵になってしまうし、あんまりうまく

いかないの。それにまだ理想的な道具も見つけて
いないし。まぁ、そういうのは細かい事だし、そんなことにこだわるのは

私にあんまり才能がない
からなのかな。でも、どうも私には度を越しがちなところがあるのよね。やりすぎると退屈な結果

になってしまうから、時には立ち止まらなくてはならないと言うのに」

ー演技をしている時にもそういうことがありますか?

「いいえ、全然。演技ではそんなに力まない。自分では何が必要かわかっている。やりすぎたりすることはないと、いつも自分

に言い聞かせているんです。でもそれはかっこ悪くなってしまうことや、
批判されたりすることが怖いからなのよね。ところが

実際は映画だと度を越した演技が許されて
しまうというのに。監督を信頼しているなら、いろんなことを試してみられるわけだし」

ー撮影が終わると哀しい気分になりますか?

「ええ、撮影がうまくいった場合はいつも終わると哀しいわ」

シャルロットはほかのフランス人女優に比べて何かが違うような、ミステリアスな感じがしていたので、本人にあえて本当に

嬉しかった。彼女は、本当に神経がこまやか。自分の言葉できちんと
しゃべるし、僕の周りにいる友達とそう変わらないような、

そんな気さえした。