好演したクリスティーナリッチには申し訳ない話だが、「バッファロー’66」を撮るとき 主演・監督のヴィンセントギャロが夢見て

いたキャスティングはシャルロット・ゲンズブール
だったという。

結局はケイトウィンスレットに決定した映画「テレーズラカン」のタイトルロールも、英国人演出家デヴィッドルヴォーは「シャル

ロットにテレーズを演じてもらい、以外な官能性を映画
に出したいんだ」と。

もうひとつ。シャルロットが「ハムレット」のオフィーリア役をオファーされていると聞いたジョンマルコヴィッチいわく「シャルロット

はハムレット役をやるべきだ!」

同業者の、しかもフランスだけでない世界規模の注目は、このようにヒートアップしてるのにシャルロット本人は少女時代と

ちっとも変わらない、ささやくような声で話し出す。


「「なまいきシャルロット」でセザール賞の新人女優賞をもらったときと「ブッシュドノエル」でやはり
助演女優賞をもらったとき

とは、とてもとてもとても(3回繰り返した!)違っていたわ。前回は14歳
で、何が何だかわからず、大勢の人の前で壇上に

上がるっていうだけで、もうハラハラ。早く終わっ
てほしい、これは試練なんだ、とむしろつらい体験だったの。ところが今回は、

私が大人になった
せいか(笑)、自分でも驚くぐらいに素直に喜べた。映画の内容も、私にとって初めてのコメディだったし。

フランスではちゃんとヒットしたし(笑) でも、浮かれてたのは賞をもらったあと2日間
くらい(笑) あとはちゃんと現実に戻ったわよ」

「自分とあまりにもかけ離れている性格の役だからこそ、ふたつ返事でOKした」というブッシュドノエル。

「ミラっていう女性は、いつもエネルギッシュで攻撃的で、だから演じるときは、私の知っている男の人をイメージしながら演じ

たり、自分の内側からそれに近いものを探し出してヒントにしたり。
なにしろ、彼女、人から好かれようとしないタイプというか、

むしろ人に突っかかっていって、嫌わ
れようとしてるみたいでしょ。これは、私にはない性格だわ」

もっともシャルロットが演じると、ただ攻撃的なだけでなく、ミラという女性の心の痛みがちゃんと感じられる。

「それ、うれしい(笑) コメディといっても、みんな各々が心に傷を持っていて深いところでせめぎあったりしているわけだから。

姉妹の関係、母娘の関係なんて、とっても普遍的なテーマよね。
残念ながら、私の家族はあんなにケンカしたりはしないけど(笑)」

ノエルとは西洋社会にとっても、大きな意味をもつクリスマス。シャルロットにとってこれまで一番印象的だったクリスマスは?と

尋ねたら、くすくすとひとりでしばらく思い出し笑い。

「悪い意味で、とっても思い出深いクリスマスがあるの。うちは毎年、母の実家があるロンドンで、いわゆるイギリスの家族の

伝統的なクリスマスを過ごすのが恒例なのよ。とにかくいろんな
楽しいことをして、まるでマジックのようなひととき。ところが、

私が10歳くらいのときかな。クリス
マスイブに家族みんなで交通事故にあってしまい、病院に運ばれたの。誰かは目の周りが、

真っ黒
になってるし、頭が半分、包帯で巻かれている人もいるし。その年のクリスマスの写真を観ると、みんなまるで怪物

ファミリーみたいわ しかも、ぶつかった相手側はほとんど傷ついて
なかったんだって(笑)」


母ジェーンと父セルジュゲンズブールのカップルは、当時、スキャンダラスな取り上げ方をされることも多かったが、家族の

何げないふれあいをとても大切にしていたことは、シャルロットの笑顔
からも明らかだ。

「母親となった自分のことを客観的に語るのは難しいけれど・・・でも、いいお母さんだと思うわ(笑)もちろん子育てには不安は

あるけれど、それはなるべく忘れるようにしてるし、息子の幸せだけを
願ってる。息子がいるおかげで、私、自分自身になりきれ

た気がするもの」

ジェーンのアパルトマンには娘たちの子役時代の絵や工作がいっぱいとってあった。シャルロットもそんな母親なのだろうか。


そういえば、ブッシュドノエルの家族はロシア系という設定。シャルロットも父セルジュはロシア系である。

「それは本当に偶然なの。でも、私、自分のルーツは大切にしたいと思ってる」

その思いの表れとしてシャルロットは、昨年、本名を変えた。つまりパスポートには「シャルロット・ギンズブルグ」と記載されて

いるのだ。

「あれはね、もともと私が生まれたとき、イギリス当局が間違えて、父の芸名のゲンズブールをそのままつけちゃったという(笑)

 父の本名ギンズブルグって、フランス人には読みづらいらしく

「ジンズブルグ」なんて呼ぶ人もいたんですって。だから「ゲンズブール」という芸名をつけたら私の出生届までそれになっちゃっ

たの。でも、私だけ家族と違う姓はいやだから、遅ればせながら
直したのよ(笑)」

10歳そこそこでの映画デビューのあと、近年、彼女自身の言う「遅ればせながら」が続いている。改姓、コメディ初出演、そして

舞台初体験。オーストラリアではケイトブランシェットも出演し
「シャルロット版が観たかった」と言わしめたふたり芝居「オレアナ」

だ。

「あの舞台、全身全霊を入れ込んで、おかしくなったぐらい(笑) もうイヤッって思ったのに、またやりたくなるの。新しい体験って、

謎ね」


text/Yuki Sato photo/Keisuke Fukamizu  Thanks to ryoko!!!