今年の7月21日、シャルロット・ゲンズブールは20歳のバースデーを迎える。果たして彼女は、この特別な1日を、どんな気持ち

で迎えるんだろう?普通の女の子にとって、20歳の誕生日は、ちょっぴり複雑な感情をともなってやってくる。まるで、あと戻り

できない崖っぷちに立たされたような感じー少しおおげさだけど、気分はかなりこれに近い。イノセントでいることが美しかった

子供時代に戻る事もできず、かといって、未来がはっきり見えているわけでもない。

「なんでもできる」というワクワクした興奮と、「なんにもできないかもしれない」という恐怖感。それが、十の位についた2の数字

まつわる感触だ。けれど、13歳でデビュー以来、(新作も含めれば)10本の映画に出演、とっくにオトナの世界も知ってるし、

自分のスタイルも持っているシャルロットには、普通の20歳が抱くこんな感慨は湧いてこないかもしれない。もっとも、ほかの

どんな女の子よりも感受性豊かなシャルロットのこと。たとえ、周囲の人間がだれひとりその気持ちに気付かなかったとしても

彼女は、20の数字をとても意味あるものとして受け止めるはずだ。

ちょうど「小さな泥棒」のラスト・シーンで、シャルロット演ずるジャニーヌが「出発よ」とつぶやき、故郷の町をあとにしたときの

ように。

そしてシャルロットの場合は、もうひとつ、普通の20歳と違った点がある。それは、彼女の”20歳の決意=将来”に世界中の

人々が注目してるってこと。「なまいきシャルロット」でセザール賞新人女優賞をはじめとする数々の賞に輝きながらも、

シャルロットは「このさき、女優を続けるかどうかはわからない」といい続けてきた。

リセ在学中は、あくまで学校優先で、映画の撮影はバカンスのあいだのみ。卒業後も超難関のバカロレア(大学入学資格

試験)に挑戦し、美術の勉強もすすめてきた。

「なんでもやってみたいし、いろんなところにも行きたい。語学もいっぱいマスターしたいし、社会の動きにも敏感でいたい」

という好奇心の塊のようなシャルロットだから、はやい時期に、自分の道をひとつに決めてしまうことに抵抗を感じていたの

だろう。しかし周囲の”まるで女優になるために生まれてきた”ようなシャルロットに対する期待は高まるいっぽう。

「小さな泥棒を見て、鳥肌がたつくらい感動したわ。シャルロットには、自然に人をひきつけてしまう不思議なパワーがある

の。私が女優になって20年がたっても身につけられない力を、彼女は最初から持っているのよ」とジェーン。

「シャルロットは、役者としての天性の才能を持っています。彼女には、本当の自分から映画の登場人物へ、たやすく移

入できるおそるべき柔軟性があるのです。彼女自身、ほんとうの役者になりたいと言っていますし、私も彼女が一生女優

を続けていくだろうと思います。(クロード・ミレール)

「ベティ・デービスのようなキャリアを期待するよ」(セザール賞のプレゼンターを努めたジャン=クロード・ブリアリ)

などなど、シャルロットの素質に驚嘆を覚えた誰もが、彼女が女優を続けていくことを望んでいる。

さらにここにきて、シャルロット自身も、本格的に女優業と取り組む意欲を見せ始めた。その最初の兆候がタビアーニ兄弟

のメガホンのもとに出演した「太陽は夜も輝く」。

シャルロットの役は、とても小さなものだったけれど、映画そのものは国際的なスターが集うイタリア作品。彼女にとっては

おなじみのスタッフが誰ひとりいない文字通りの他流試合だった。

こんな作品には、自分の力を信じない女優は絶対に出演しないはずだ。つまり、「太陽は夜も輝く」は、シャルロットが過去

の出演作を通じてつちかってきた女優としての自信を、国際的なステージにぶつけてみたチャレンジ精神の表れだといって

もいい。「女優を続けるなら、本物の女優になりたい」 昨年来日したときに、シャルロットはこんなコメントを残していった。

彼女がいう本物の女優とは、スクリーンに登場するたびに素晴らしい演技力で、見る人を圧倒せずにはおかない存在感

あふれる大女優のことだ。個性で勝負の天才少女から、本格的な演技派女優への旅立ち。

20歳を迎える日、彼女はどんな決意を胸に、「出発よ」のひとことをつぶやくのだろう?

今年、日本でもあいついで公開されそうな2本の新作から、どうやら、その答えが見つけられそうだ。

では、お待ちかね。シャルロットの明日を占う2本の新作を紹介しよう。

まずは「世間の目から見れば」(愛を止めないで)というラブストーリー。シャルロット自身も「若い感覚にあふれていて、とっ

てもイキがいいの。 大のお気に入りよ」と絶賛していた、「愛さずにいられない」の新鋭エリック・ロシャンの監督作だ。

昨年7月9日から9月下旬まで撮影されたこの映画に、シャルロットの出演場面はあまり多くない。(彼女の撮影は1週間

で終わってしまった)が、彼女はストーリーのキー・パーソンともいえる重要な役柄を演じている。主人公の青年が、恋人

に会うためにスクールバスをジャックしてフランスを横断するという物語の中で、シャルロットは青年の恋人ジュリエット

に扮しているのだ。このお話は実際にあった事件の映画化で、ロシャン監督は新聞記事を読んだときからずっと企画を

温めていたという。シャルロットの相手役には「愛さずにいられない」でアルベルン役をやっていたイヴァン・アタルが

扮している。

そしてもう1本の新作は、日本にもタイトルだけが伝わっていた「ありがとう、人生」(メルシーラヴィ)。監督は、「美し

すぎて」のベルトラン・ブリエ。パリのエピネー・スタジオに異様なセットを作り上げ、昨年7月16日にクランクインしたこの

作品もすでに撮影は終了済み。パリでは2月に公開予定で、おおいに話題になっているという。

それもそのはず、なんといってもキャストがすごい。主演のシャルロットをはじめ、アヌーク・エーメ、ミッシェル・ブラン、

ジェラール・ドパリュドゥー、アニー・ジラルド、ジャン・ルイ・トラティニャンなど、フランス映画界のビッグスターたちが

顔をそろえているのだ。そして、シャルロットの相棒役を努めるアヌーク・グランベールにも、熱い視線が集まっている。

彼女は、パリで上演された「ママと娼婦」という舞台が大ヒットして注目された新人女優。

いまやあちらでは、大変な人気者だとか。さらに、この映画にまつわる話題は、まだまだつきない。音楽を、シャルロット

のパパ、セルジュ・ゲンズブールが担当し、主題歌をルー・リードかボーイ・ジョージが歌うのもそのひとつ。

そして、スチール写真が1枚たりとも公開されないことも、話題づくりの大きな原因となっている。そのかわり、ストーリー

のほうはかなり詳しいことがわかっているので紹介しよう。

といっても、これが、いかにもフランス映画らしく難解。基本は、シャルロットとアヌークの珍道中紀なのだが、時代設定

が1916年、1942年、現代と入れ替わるのだ。かといって「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいなSFというわけでもない。

シャルロットたちは現在の姿のままで、各時代に存在していく。ファーストシーンは、海岸でふたりの少女が出会う場面。

なぜかウェディング・ドレスを着ているジョエル(アヌーク)が男にふられたところに、カミーユ(シャルロット)が現れる。

性に奔放なジョエルとたちまち意気投合したカミーユは、彼女を医者に連れて行こうとする。

本当は、家に帰って大学試験の勉強をしたいのだが、なんとなく、あっちの病気にかかってるらしいジョエルを見捨てて

おけない気分になってしまったのだ。かくして病院を探しあてたふたりは、ドアをノックするが、出てきた男に「医者は

いない」と言われる。ところがその男こそ、本当は医者だったのだ。するとそこに、今度はプロデューサーと映画監督

と名乗る男たちが出現。なんと、いままでのお話は、映画の一部だったの?びっくりしたカミーユは、「へんな物語に

入り込んじゃった!」とパパに電話で助けを求める。

パパは病院に来てくれたが、これがかえってひと騒動の原因に。とここで突然、画面はカミーユの両親のベッドルーム

にワープ。ジョエルとカミーユは、両親のメイクラブシーンを見ることになる。それはカミーユがママのお腹に宿るその

夜のことだった。

と、まるで「不思議の国のシャルロット」とでも呼びたくなるようなシュールな物語だが、そこには、恋愛・医療・映画・

エイズ・戦争といった硬派なテーマが軽やかなタッチで描かれている。日本では今年の秋ごろに公開される。