セルジュ・ゲンズブールを父に、ジェーン・バーキンを母に生まれた少女として世に知られたシャルロットも、今年30歳。 いつの間にか、

美しく魅力的な大人の女性に成長し、女優としても二十数作に着々と出演
してきた。 新作『フェリックスとローラ』の公開を機に、パリで

シャルロットに会った。

息子と散歩中に眺めるセーヌ川の美しさ。この街に住む喜びを感じるとき 「私が美しいと思うものって、完璧なものよりも 欠点があるもの

だわ。素晴らしい田園の風景よりも、汚く、人がひしめく都会の方が好き。人の
顔にしても、整った造形美 よりも、どこか完璧でない、個性

的な顔のほうに惹かれるわ。」

あなたにとって、美とは、という質問に、シャルロット・ゲンズブールは、考えながら、丁寧に言葉を選びながら、答えてくれた。

「私の好きな都会のイメージを凝縮したものは、もしかしたら、ロンドンの街の、湿ったようなアスファルトの匂いかもしれないわ。子供の

ころ、母に連れられてロンドンに行く度に、あの悪臭を思い切り吸い込んでは、ああ、
ロンドンに来たな、と思ったのを思い出すわ。 パリで

好きなのは、古いものが堂々と、そして自然に町のそここ
こに残っていることかしら。最近7区に住むようになって、息子を連れて、チュイ

ルリー公園に散歩に行くときに、
セーヌ川の上の橋を渡るんだけれど、そのときに、日に当たった橋、川の水面、そして公園の緑の広い

展望を
見ながら、ああ、なんて美しいところに私は住んでいるんだろう、と思うわ」 人生のパートナーであり、息子ベンの父親である、俳優

のイヴァン・アタルとシャルロットが一緒に住むようになって10年の間に、二人はなんと
12回も引っ越したという。

「二人そろって引っ越し魔なのは、俳優、という職業とも関係あるのかもしれないわね。役の中に入り込むように、いろんな住みかに入り込

んでみたくなるの。そして、二人そろって、その時々に理想的と思える住処に、
実際に住んでいる自分たちを思い描くと、いてもたっても

いられなくなって、すぐに実行に移してしまうのね。
ロサンジェルスに3ヶ月住んだこともあれば、田舎の家を買ったこともあるわ。でも、

結局、一旦住んでみると、
そこは理想の住まいではないの。しばらくすると、また次を探しているわね」 そんなボヘミアンな暮らしも、今の

アパルトマンを買って、一応、終止符を打ったつもりだそう。

「私の好きな、パリの古さがよく生きたアパルトマンなの。子供がいると、少し一ヶ所に落ち着きたい、という気持ちも自然に起きるし、今の

私にはふさわしい選択だと思うわ」

30歳のシャルロットは演じることが楽しくて 『なまいきシャルロット』や『小さな泥棒』の少女のイメージが今でも強いシャルロットも、30歳を

迎えて、いつの間にか、美しくも落ち着いた、魅力的な大人の女性になって
いた。パートナーと子供に囲まれた現在の生活は、とても幸せ

なのだろうと、シャルロットの穏やかな笑顔を
見たら、推測せずにはいられない。

「演じる喜びは、年と共にますます強まって来ているわ。今の自分とはまるで違う役を演じて、身体をいっぱい使うのが、楽しいわ。暴力的

なシーンも大好き」と笑う。  日本で公開されたばかりの新作、パトリス・ルコ
ント監督の『フェリックスとローラ』でシャルロットが演じるのは

、恋する相手に見せる自分を、ドラマチックな
人生を送ってきたかのように嘘を重ねて、演じてみせる女性ローラ。

「ある時期の私も、自分の存在を本物よりも刺激的に見せたくて、あることないこと日記につけていたりしたことがあるわ。だから、今の私

とはローラは似ていないけれど、彼女の心はとてもよくわかるの。役作りの
ひとつとして、私の目の周りを真っ黒に塗ったようなアイメイク

にしたんだけれど、これは、私にとっては、
美しくするためのメイクではなくて、仮面の後ろに自分を隠すためのメイクだわ。本当の美しさ

は、欠点を
も隠さずに、自然のままの表情を見せてこそ生まれてくるものだと思う。ローラも、恋人の前で本当の自分を見せられるように

なったら、アイメイクも変えていくはず」  

続いての新作は、パートナーのイヴァン・アタルの、初監督作品『私の妻は女優』で、シャルロットは楽しそうに実名で、イヴァンの妻である

女優役を演じ、その後も出演作が目白押しだ。30歳のシャルロットは、
私生活も女優としても、まさに充実のときを過ごしているようだ。



Photos Koichiro MATSUI /Text Izumi FILY-OSHIMA 『marie Claire』 2001 1月号?