フランス女には生まれついての魔性がある・・・フランス映画などで観られるフランス女たちは小悪魔的な振る舞いで男を翻弄し続けて

います。話しの途中でもかまわず電話を切ったり、
基本的にノーブラだったり、激しく喧嘩していつしかそれが前戯になっていたり、下手

にさわったら
被爆しかねない魔性熱を放つ彼女たち。そんなファムファタルに憧れた私は、せめて形から入ろうとフランス語学校に通い、

フランス料理を食べ、フランス男子と出かけ自主練に励みました。しかし
何年勉強してもRの音をマスターできず、フランス料理の濃厚で

癖のあるソースに吐き気を催し
面白みのない律儀な性格が災いして奔放にふるまったり、ノーブラになることもできずに、結局挫折しまし

た。フランス女の色気は付け焼刃で体得できるような物ではなかったのです。
フランス女の魅力に目覚めたのは、中学生の時に観た

「なまいきシャルロット」という映画がきっかけ
です。スクリーンで危うい特殊魔性熱を発していたのは、シャルロット・ゲンズブール。

セルジュ・ゲンズブールのセレブ精子とジェーン・バーキンのセレブ卵子が融合してこの世に生を受けた彼女は、存在するだけで半径数

メートルが映画空間になってしまう、近年最も映画に愛され
ているファムファタルと言えましょう。

その、憧れの女神シャルロットに、なんと会えることになったのです。10年も連れ添っている夫、イヴァン・アタルが監督した「僕の妻は

シャルロット・ゲンズブール」のプロモーションのための
滞在中、少しでも彼女のオーラ(そして空気中に飛散する皮膚のかけら)を吸い

込みたくて、
関連イベントに足繁く通いました。記者会見でのシャルロットは大勢のマスコミを前に少しナーヴァスになっているように見え

ました。
監督である夫よりも、自分の方が注目されてしまうことへの気遣いもあったようです、不要な愛想笑いを振り撒くこともなく、時たま

愛に満ちたまなざしでイヴァンを見つめ、しなやかに自然
に振舞うシャルロット。マルボロライトを吸い込み上方に煙を吐き出す仕草も完璧

でした。
はきなれたジーンズと第二ボタンまではずしたラフなシャツの着こなし、薄いメイクが、素晴らしい素材を損ねず本質的な美を増幅

させています。対照的だったのは花束贈呈に駆けつけた辺見
えみり譲。きっちりセットしたヘアスタイルに2時間くらいかかっていそうなメイク、

おろしたての
ワンピースに肌色のストッキングといういでたちの彼女はとても人工的で、金持ちの少女が遊んですぐに飽きてしまう人形の

ようでした。作りこんだ美はフランス女の自然な魅力の足元に
も及ばないことを改めて実感しました。

夜の来日記念パーティでのシャルロット、オリーブグリーンのニットにジーンズをはいて、イヴァンと共にリラックスした雰囲気。胸元から見

える鎖骨の美しさ、少女時代から変わらない唇の曲線
に見とれていたら視線が合い、暗闇でキラキラ輝く瞳に魂が半分吸い込まれました。

驚いたのは、映画女優というとメイクや修整で実物よりもスクリーンのほうが綺麗なのが普通なのにシャルロットは映画よりも実物のほうが

何倍も美しかったことです。彼女は何度人を夢中にさせれば
気が済むのでしょう・・・・。

そうして半分夢心地で迎えたインタビューの日。2人の醸し出す愛の空気で緊張も半減したところでさっそくイヴァンに質問を投げかけてみました。

「映画の中でシャルロットの後姿がスケッチされるシーンに夫だからこそ気付くさりげない色気を感じました。あなたから見てシャルロットの

魅力はどんなところですか?」

2人は顔を見合わせて笑い出し「何て言っていいかわからない・・・全部かな」とイヴァン。いきなりノックアウトです。

では、フランス女性の魅力とは?という質問に

「フランスにずっと住んでいるので、客観的に定義することはできないけど、洗練されていてエレガントという魅力はあると思う。少なくともアメ

リカ人よりは(笑)。何が魅力であるといちがいに
は決め付けられないけれど、色気というのはその人の視線、仕草、全てから出てくるものでは

ないかと思う」とイヴァン。

傍らで軽く腕を組んで聞いているシャルロットは。ほとんどノーメイクで爪にも何も塗っていないのに、自然なフェロモンがにじみ出ています。

美しさを保つために特別なことは何もしていないと
いうのが信じられません。

「映画ではシャルロットが美容のために水を毎日10リットル飲むというエピソードがありましたが?」

「水はワインよりもよく飲むわ。でも、イヴァンのほうがたくさん飲んでる」

「いや、シャルロットの方がたくさん飲むよ。トイレに行く回数だって多いだろう」

あとでシャルロットがトイレに立ったとき、イヴァンは、ほらね、というように目配せしました。

セレブなのにどこまでも気さくな2人に感動を覚えずにいられません。

「今日のラフな格好も素敵ですが、いつもジーンズなんですか?」

「ええ、大体こんな格好よ。ジーンズは今はいている一本しか持っていないの。夜洗って、朝までに乾いたのをはいています」という答え

には驚くと同時に、感動して泣きそうになりました。

超セレブなのに消費社会に溺れず、質素でシンプルな生活を送っているシャルロット・・・・たくさんの映画に出てもメディアに消費されない

彼女の存在感の秘密がかいま見れたようです

(余談ですが、インタビューした日にはいていたジーンズに大量の墨汁をこぼしてしまい、私もジーンズ一本の女になりました。これは

シャルロット様が導いてくださったにちがいありません)。

さて、「僕の妻はシャルロット・ゲンズブール」では現実のシャルロットと近い女優の役をシャルロットが、その夫のスポーツ記者役を

イヴァンが演じています。映画の中で、イヴァンが若い
女性と浮気するシーンがありますが、実際にもしそういうことが起こったら・・・?

シャルロットは「別れます」と即答。イヴァンは「浮気したことがないから映画の中でそういう状況を作って疑似体験してみたんだ」と冗談

めかして言いますが、現実の夫婦愛はゆるぎないもので
あることは間違いなさそうです。それにしてもフランス女が男を振り回す魔性の

イメージは
幻だったのでしょうか?男と女ではどちらが恋愛の主導権を握っているのかイヴァンに質問をぶつけると「実際にどちらに主導

権があるとは考えたことがない。お互いが同じくらいすきである
ことが普通なのでは?」とゆがんだ恋愛間をたしなめられました。

フランス人が奔放なのは恋が実るまでで、成就したカップルになったら日本人よりもずっと一途でまじめなのかもしれません。

さらに、日本では若い女性ばかりもてはやされますが、フランス女性は年齢を超越しているように見受けられ、どうすればそういう意識で

いられるのか、という疑問に対し、イヴァンの「世界中
どこでもそういう価値感がはびこっています。雑誌を見ても、どうやって若さを保つか

についての
記事ばかりで、もはや強迫観念のよう。でも、シャルロットは10年前より今の方が全然美しいと思います」という発言には。

男の自信がみなぎりスイートテンダイヤモンド級の愛情が感じられ
ました。

シャルロットは「シモーヌ・シニョレさんみたいに、時の流れに身を任せて老いていく自分を認め人間としての尊厳を持つ女性に魅力を感じ

ます」という言葉どおり、外見に手を加えず、厚化粧
もしない主義のようですが、結果的にそれが肌に負担をかけない美のスパイラルにつな

がって
いるようです。

生身のシャルロットと会ってわかったのは、色気というのは野に咲く花の香のように自然なものであり、頭であれこれ考えているうちは出せ

ないということ。もはや無我の境地、禅の世界です。
そもそも魔法の女を目指すなんて本末転倒。シャルロットのように一人の運命の相手

との愛を
まっとうしてこそ真のファムファタルになれるのです・・・。