シャルロットには、無駄なものは似合わない。ありきたりの表現もスタイリッシュな装飾も。そこにいるだけで早朝に滴り落ちる

透明の雫のように、痛々しい程の感性の揺らぎが伝わってくるからだ。すでに2児の母になったいまも、生身の部分を表に

見せず、よれよれのバーバリーを気持ちよさそうに着て、静かな存在感が漲っている。要するに生まれついての女優なのだ。

母親のバーキンほど社交家ではなく、父親のゲンズブールのように、暗黒世界に取り付かれていず、自由に飛び立つ調和感

に恵まれたシャルロット。夫にイヴァン・アタルとともに仕事もプライベートでも輝きに満ちている彼女に、いくつかの質問を

投げかけた。


ーシャルロット、あなたからはこのところいろんな表情を見せられる。メキシコの監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの

「21グラム」は、パリではもう封切り済み。その中でショーン・ペンやベニチオ・デル・トロやナオミ・ワッツと共演している

。イヴァン・ アタルの新作「ふたりは結婚して、たくさん子供ができた」でも、素敵な人たちといきいき演じていて。

本当に期待されてるわね。

「イヴァンの新作はいま編集の段階なの。ジョニー・デップやエマニュエル・セニエも出ているし、イヴァンも私もその中で

カップルとして出演している。私はね、夫に浮気されるのだけど、どうしてもそれを認めようとしない役なの。かたくなに信じよう

としない」


ー最近はエチエンヌ・ダオとデュエットでレコーディングしてるし。「レモン・インセスト」以来、久々の歌の活動も始めたのね。

「その前にも母と一緒に、慈善レストラン「レスト・デュ・クール」で歌ったわ。面白いことがあるの、私の伯父のアンドリュー

バーキンの映画の中の台詞をマドンナが私の声をそのまま、自分のアルバム「ミュージック」の中に挿入したのよ」


ー音楽とはどんな関わりを持ってきたの?いつ頃から?

「4歳上の私の姉ケイトが、家でブロンディやアイアン・デュリィをきいていたので、私もぼんやりと一緒に耳にしていたのを

覚えている。まだぬいぐるみに囲まれた子供部屋にいた頃だけど!とても印象に残ってる」


ーあなたのご家族は、ケイト・バリーにしても、ルー・ドワイヨンにしてもリュシアン・ゲンズブール(セルジュの最後の

パートナー、バンブーとの息子)とも、とても絆が強いと聞いている。あなたにも二人の子供がいるし。

「ええ。そうね。私たちって結構仲良くしているわね。毎日電話をするとか、そんなことはしなくても分かり合えるって感じ

かもしれない。お誕生日とか、そういう時はみんな一緒に集まるの。私の場合は同じ両親のもとで生まれたふたりの子供

たちが、どんな風に育つかとても楽しみだわ」


ーヴェルヌイユ通りの家族の家(セルジュの館)はどうなった?

「いまもそのままにして、家具やありとあらゆるものは、手をつけずに残しているの。当時私たちがすんでいた時のままに

してる。そうはいっても乱雑になっていたのは、少し片付けたりしてるけど、当時の雰囲気は残ってる。いずれあの家は父の、

セルジュ ゲンズブール記念館にするつもりなの。でもそのためにはもうひとつ別棟を建てないと、見学者を入れて、みせる

ことはできないと思う。いつかきっと実現させたいと思っているのよ」


ー前作「僕の妻はシャルロット・ゲンズブール」でも、新作「ふたりは結婚して、たくさんの子供ができた」の中でも、実生活が

そのまま映画になっているような気がします。実際にはどうなのかしら?イヴァンがシナリオを書き、監督をするというのは。

「いろいろ話し合ったりできるし、ふたりにとっては新鮮な体験といえるわ。だけど、実生活をそのままシナリオにしている、と

いうわけでもないのよ。ベースになってるといえるかもしれないけど。ほんの一部だけよ」


ーあなたたちカップルは、引越しマニアというので有名よね?

「ええ。これまでもう14回も引越したわ。右岸から左岸へ。左岸から右岸へと。でもね、けっこう私たち面白がってるの。

おかげでいろんなカルティエを知ることができたし、そこで新しい人生をスタートさせるような気分で。それに子供ができたり

すると、不便なところが出てくるのよ。階段がありすぎるからもっと下の階がいい、とか」


ー今後の仕事のプランは?

クロード・ベリの新作の後は、ドミニク・モルの撮影に入ることになってる」


もともとシャイな少女時代をすごし、外見は引っ込み思案な表情をみせながらも、その実、驚くばかりにかたくなな芯の強さを

ちらつかせるシャルロット。ショーン・ペンと共演した「21グラム」でも直接監督に手紙を出して、役を得たという。それはこれ

まで のシャルロットとは、随分違う一面といえるかもしれない。

久々にエチエンヌ・ダオとデュエットで、レコーディングもしているし、なにかとてもポジティブな感じがする。


「いまね、モーリシャス島にきてるの」

「撮影なの?」

「違う、家族でヴァカンスよ」

電話の向こうでシャルロットは息を弾ませていた。新作の編集も無事に終わった夫のイヴァンと二人の子供たちと家族旅行を

しているという彼女は、ビーチでのんびりと時間を過ごしたり、夕焼けを眺めて過ごしているという。

「ママン、ママン」

腕の中で泣き叫ぶ子が、なかなか泣き止まないので、少し困っているようだ。電話を切ったが、家族団らんのひとときが、

ライブに伝わってきた。

子供の頃はセルジュの小さなミューズとして育ち、大人になってからは男優で、映画監督の夫イヴァンのミューズになった

シャルロット。彼女はどことなく現実離れのする存在だが、実はとても家庭的で、料理を作るのも大好きだし、なによりも

子供たちを大切にしていて、理想の妻というのが素顔なのだ。そうした思いがけない一面を持つシャルロット。今後どの

ように変貌していくかが楽しみだ。