「撮影は、ラストシーンからスタートしたのです。ベルギーのブランケンベルグというところで ロケをしたのですが、あの場面はなぜか

とても心に残るシーンで、私たち3人はノスタルジック
な気分に包まれていました。べつに哀しい、といった感じではないけれど、海辺の

風景に、なに
か心に染みるようなものがあったからかもしれません」

ショートヘアだったのが少し伸びてきているせいだろう。以前のような少女の面影は薄れて、どことなく大人のアンニュイな表情をちらつか

せているようにもみえる。左岸の自宅前のモン
タランベールホテルの片隅で、シャルロットは相変わらずぽつりぽつりと、雨だれのように途切れ

がちな口調で語りだした。

鋭い心理分析を得意とする作家、ジュリアンバーンズの原作を、30歳の新進の女流監督マリオンヴェルヌーが映画化した「ラヴ etc」では、

実生活でのパートナーでもあるイヴァンアタルと、「リ
ディキュール」で好演したシャルルベルリング、ふたりの男性の間で微妙に揺れ動く、

女性の心理
を垣間みせた彼女は、少し考え込むようにして、ベルギーでのロケの話しを続けた。

「ピエール役のシャルルベルリングとははじめてだったので、少し心配だったけれど、私たちの出会いはとても自然だったの。まるで私たち

3人は仕事ではなく遊びにきているように、お互いに
自由に振舞うことができたの。それは素晴らしかった」

シナリオを読んだ段階から、マリー役はぜひ自分でやってみたい、と思って監督に直接頼みにいったほど、この映画に対してシャルロット

は積極的だったそう。どこがそんなに気に入ったのだろ
うか。

「なにもかも、自然だから。こういう女の人の感情って、私よくわかる、と思ったの。ブノワもピエールも、とても理解できる。私も自分の感情

を口で表現するのってとても苦手だし、怖い。ブノワにも
ピエールにもはっきりと好きっていえないのは、なにか漠然と怖いからなのよ」

どうして怖いの?とたずねると、

「いってしまうとなにかが崩れていくから・・・」

それからしばらく黙り込んでしまった。昨夏一児の母になったシャルロットの感性は、「ラヴ etc」の中で一段と深まってきたようだ。