パリのセーヌ左岸にある、シックなホテルのバー。イタンビューに現れたシャルロットは、彼女の偉大な

父、セルジュ・ゲンズブールがかつて
座っていたというテーブルに座った。すらりと伸びた脚によく似

合うジーンズと、シンプルなセーター、襟元には繊細なダイヤモンドの
ネックレスーシャルロットのいつも

のスタイルだ。内気で、優しく、すでに伝統的な存在。想像していたよりも背は高く、ずっと女らしい。

去年はそんなシャルロットにとっても、うれしい一年だった。夫イヴァン・アタルとの初のコラボ作品「僕

の妻はシャルロット・ゲンズブール」
に続く第二弾「フレンチなしあわせの見つけ方」が公開されたのだ。

華やかなスター女優を実名で演じた前作とはうって変わって、
夫の浮気に悩む普通の主婦の心情を生き

生きと演じた。

「この映画はとても好きだわ。こんなことを言うのはちょっと気が引けるけど、イヴァンは監督としてすご

く才能があると思うの」と、
シャルロットは語る。

「彼は撮影の時、俳優にとって何が一番必要かを即座に教えてくれる。それは演じる側にとってはすごく

リラックスできることなのよ。
でも最初は彼も監督をやることにコンプレックスを感じていたわ。映画学校

も出ていないし、専門的な勉強をまるでしていなかったから」

そんなイヴァンのために、シャルロットは、今回も映画の製作過程のすべての段階で夫を支えてきた。

内容についても、シナリオを書くずっと前から、真剣に話し合いを続けていたのだという。そして出来上が

った作品は、前作よりもずっと
辛口でウイットにとんだラブストーリーとなった。

「映画は彼に似ているの。とくに、ユーモアと悲劇的な出来事のバランスをとる絶妙のセンスが。撮影に

入る前、二人ですごく長い時間を
かけたわ。だから、やっと完成した映画を見たときは心から感動したの」

この作品には映画ファンにはうれしい箇所が随所にある。シャルロット演じるヒロインの理想の男性役で、

あのジョニー・デップがゲスト出演
しているのがそのひとつ。もうひとつは、今年小学生になる二人の長

男、ベンが、子供役で映画デビューを飾ったことだ。

「ベンを私の子供役で映画に出演させたのは、そのほうが気楽だし、楽しいと思ったから。子供はすで

に二人いるけど、できればまだたくさん
ほしい。今回の母親役には私の実生活の部分を、かなり生かす

ことができたと思うわ」

母親になったことで、自分の両親について考える機会が増えたと彼女は言う。

だが、ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブールという偉大なカップルの娘として、マスコミから監視

され続けた少女時代は、いつも
最高という環境ではなかったようだ。

「はっきりとは思い出せないけど・・・・子供時代はかなり特別な世界で過ごしてきたと思う。母は秘密

をもちたがる私の癖をとても大事に
してくれたし、父は私を愛してくれた。でも、私はコンプレックスの

塊だった」と、シャルロット。

「あのころ、私はすごく美しい女性たちに囲まれていたの。母方の祖母、母のジェーン、妹のルー、

義理の母・・・・みんな信じられない
ほど美しかったわ。父が私を愛していることは知っていたけど、その

視線は美人に向けられたものじゃなかった。私はそんな家のなかで、
彼女たちにいつも引け目を感

じていたわ!ゲンズブール一家の”醜いアヒルの子”だと思っていたのよ」

コンプレックスからくるストレスで精神的に不安定になり、パニックを起こした時期もあったという。だが

そんなトラブルも、母親となった
現在では、だいぶ乗り越えたようだ。女優としてのキャリアは相変わらず

絶好調。最近は名匠クロード・ベリの映画に出演し、今度は
ハリウッドでブレイク中の監督兼脚本家

ミシェル・ゴンドリーの新作の撮影も控えている。そして、念願のファッションモデルの仕事も!

「ジェラール・ダレルのモデルに選ばれたことは、信じられないような経験だったわ。突然、トップモデル

のステファニー・セイモアの
後釜をお願いしますと言われたんだから。撮影場所は、父が昔住んでいた

アパルトマン。子供時代によく見た人たちとも再会したわ」

最近では、自分に対するネガティブな気持ちは打ち負かすことに決めた、と彼女は言う。

「この前、20歳のときの自分の写真を見たの。そんなにブスじゃないじゃない、と思って自分でも驚い

たわ。こんなふうになれたのも
イヴァンや子供たちのおかげね。彼らと暮らしていると人にどう見られて

いるかなんて、まるで気にならないのよ(笑)。人生の本当の
価値が何かにやっと気づくことができたのね」