相手役と裸のままベッドで抱き合い、愛しているとささやき、それを40回繰り返す。 それからスタジオを出て
自宅に帰り、今度は別の相手と夕食を食べるとしたら・・・。 そこから生じる戸惑いや誤解は、多くの役者が
経験しているはず。 もっともらしく演じるためには、役になりきるのが一番。 だがウソの関係にせよ、撮影
期間中に本物の感情が、共演者の間に芽生えることはありえないのだろうか?
こんなテーマに真正面から取り組んだ、俳優イヴァン・アタルの初監督作品 「僕の妻はシャルロットゲンズ
ブール」。
主演はもちろんシャルロット。つまり私生活のパートナーであるイヴァンとの共同作といういうことになる。
今回の映画で役者はみな、実名と同じファーストネームの役を演じ、現実とフィクションの区別をぼかした
設定になっている。 シャルロットはこれまで見られなかったほど軽妙な演技を堂々と披露して、自ら楽し
みながら観客を楽しませてくれている。 この楽しいヒューマンコメディでの新しいシャルロットの姿はまさ
に彼女の新たな挑戦といえるだろう。
今では出演作が20本を超え女優業も板についてきたシャルロット。 もう以前あれほどやりたかった
「アンネの日記」 の主役をやるような年ではないけれど、今回のチャレンジで願いがかなったような気持
ちになっている。
「イヴァンのことは愛しているだけでなく尊敬もしているの。彼の作品の主役をもらえてプレゼントをもら
ったみたいな気分よ。 ただ一緒に暮らしている相手の映画に出るのはとてもきついことだけど。だって、
失望させてしまうんじゃないかと心配になってしまうもの。 でも一緒に映画を作ることでお互いがますま
す惹かれあうようになったわ」
イヴァンが今回の映画を手がけるにあたり、何年もの努力や高尚を見守ってきたシャルロットは手放しで
パートナーを誉めたたえる。
「イヴァンは照明からポスターまで、何もかも思いどおりにするために本当に苦労していたわ。でも決断
力と行動力があって、自分のやりたいことをちゃんと把握している彼を見ると、私もいつも以上にやらな
きゃ、と思うの」
ふだん、シャイで多くを語らない彼女がこんなにもパートナー、イヴァンのことを語る姿は珍しい。
「私はずっと透明人間になりたい、誰にも振り向かれずにいたいと思っていた。 でも最近、通りで見られ
るのがいやなら、家にいればいいだけのこと、って思えるようになったの。 それにシャイというのは、変な
意味での自意識過剰だったりするわ。 ほかの人は私のことをどう思ってるんだろう?ってね。 ただ気に
なり始めるともうダメ。 びくびく落ち着かなくなって、結局はうまく演じられない」 そんな彼女の自信
を回復させる才能の持ち主がイヴァンだ。
「彼は私がぼそぼそ喋ったり、顔を上げられなかったり、暗い考えに落ち込みそうになるのを救い出して
くれるの。 今回の役を練習するときもせりふを大声で怒鳴ったり、歌いながら喋ったり、テーブルの上
で飛び跳ねるように言われたわ。 何時間も何時間もやらされてすごく恥ずかしかったけど、結局その
おかげで自分を解放することができたの」
イヴァンにとっても、この映画を手がけることは特別な意味があった
という。
「10年近く彼女と一緒に暮らしてきて、彼女を笑わせたい、という僕の望みはますます強くなっているん
だ。僕にとって彼女と一緒に映画を撮ることは、一緒に楽しむ機会を増やす事なんだよ」
ゲンズブールとバーキンの娘。 シャルロットにはその形容が常につきまとってきた。
「誰かの娘じゃない、自分自身になれる楽しみを感じるようになったのは、最近のこと。 今回の映画の役
はその極みかもしれないわね」
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