シャルロット・ゲンズブールと聞いて、おそらく多くの人は、まだあどけなさの残る、無口で頼りなげな、

かつてのイメージを思い浮かべるだろう。フランス人にしては珍しい童顔、独特の首をちょっと突き出した

猫背ぎみの姿勢と、ささやくようなしゃべり方。'96年の『ラブetc.』で2人の男性からの求愛にとまどって

た彼女は、たしかに手練手管に長けた大人の女などではなく、初恋に翻弄される少女のようだった。だが、

その後3年間の出産・子育て休業を経てスクリーンに戻ってきたシャルロットは、見違えるほどに大人びた。

女性にとっての一大イベントを経験したのだから当然と言えば当然かもしれないが、精神的な変化はこう

外観に表れるのかと思うほどその佇まいには余裕が生まれ、ひと回りもふた回りも大きくなったような

気が
するのだ。

彼女の復帰作となった『La Buche』は、フランスで昨年末に公開され、あれよあれよという間に
動員数を

増やしロングラン・ヒットを記録した。映画の背景になるのはある年のクリスマス。再婚の夫に
先立たれた

母を慰めようと3姉妹が集まるが、一見平穏に見える彼女たちの生活も実はそれぞれが問題
を抱え、

穏やかな一家団らんを迎えるにはほど遠い状況に……。サビーヌ・アゼマ、エマニュエル・ベア
ールに

続く三女を演じるのがシャルロット。この映画での彼女の演技は、かつてないほどにのびのびと
ナチュラ

ルに見える。

「この役は、これまでの私になかったイメージをもたらしてくれたの。より生き生き
とダイナミックで、そのく

せ妙に辛辣な面もある。こんな私は今まで見たことがないって人からも言われた
わ。それに、男の人を誘

惑したり、人に気に入られようとすることにあまり興味をもたない彼女のようなキャ
ラクターを演じるのは

とても新鮮だった(笑)。こういう女性の役って、今の映画界ではあまりめぐり合えない
ものだと思うから」  

この願ってもないチャンスに全力投球で臨んだ彼女の演技は批評家からも絶賛され、
今年2月に開催さ

れたセザール賞では、みごと最優秀助演女優賞に輝いた。これまではどちらかというと
人づきあいが苦手

で、マイペースに仕事をこなしてきた感のある彼女。だが、決して殻にこもっていたわけ
ではないと語る。

「たしかに"働き者"のイメージはないかもしれないけど、それはたんになかなか面白い
脚本に出合えなか

っただけ。私が年齢より若く見えるという問題もあったのかもしれない。でもだからと
いってお金のためだ

けに仕事はしたくなかったし、自分の選択にはつねに責任をもっていたかった。それは
これからもかわら

ないわ」  

フランスを代表するヒップなカップル、セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンのあいだに生まれた

シャルロットは、数あるセレブリティ家庭のなかでも、最も特別な少女時代を過ごしたほうだろう。その私

生活はつねに人目にさらされたばかりか、夜遊び好きだったセルジュのライフ・スタイルのせいで、学校

の登校時間に両親が朝帰りすることもまれではなかった。だが不思議にも、反抗期を迎えたことは一度

もなかったという。

「当時はそれが当たり前のことのように思っていたのね。それに週末やヴァカンスは
いつも両親と一緒

だったから、彼らの不在を寂しく感じるようなことはあまりなかったわ」  

それでも外の人間に対しては、内気で気難し屋の顔をもっていた。クロード・ミレール監督はそんな複雑

な彼女の性格を見抜き、『なまいきシャルロット』を書き上げる。当時14歳。これで一躍天才子役として名

を馳せたシャルロットは、以後、『小さな泥棒』『メルシー・ラ・ヴィ』『愛されすぎて』と、着実に女優として

成長を遂げていった。 出産はこれまでの人生で最高の出来事 そんな彼女に運命の出会いをもたらした

のが、20歳のときの主演作『愛を止めないで』だ。エリック・ロシャン監督によるこの映画で、シャルロット

現在のパートナーであるイヴァン・アタルと初めて共演を果たす。以前から彼女の大ファンだったという


ヴァンは、撮影中から猛烈アタックを繰り返し、ついにそのハートをゲットすることができたのだとか。
その後

現在にいたるまで、彼はつねに最良のパートナーとして彼女を支えてきた。

「イヴァンは本当に"すべてを分かち合える"という信頼感がもてる人。役者というのは、いつも他人に成り

代わっている職業でしょう?だから、自分が最後に戻ってくることができる場所、自分を現実に引き
止めて

おいてくれる、確かな空間が必要なの。彼となら、そうした場を一緒に作り上げることができると
思ったし、

その予感は正しかった」 

そして'97年、彼女は念願の愛息ベンを出産する。3年間のインター
バルを経てようやく仕事に復帰した

彼女だが、今でも現場には必ず息子を連れていくとか。

「彼がまだ学校に行かない年齢でよかったわ(笑)。息子と1週間も離れているなんて耐えられない。子供

をもつことによって自分のものの見方がすごく影響を受けたの。これまでの人生で最高の出来事と


えるでしょうね」  

実際子供ができてからの生活は、行動範囲が狭まるどころかとてもアクティブになったよう。

「2年前からスポーツも始めたわ。努力しないで待っているだけでは、美しいボディラインは手に入れ

れないでしょ? 私って、実は体系にとてもコンプレックスをもっているの。胸は母親ゆずりのぺちゃ
んこ

なくせに、全体のラインは彼女みたいに整ってないんだもの」  

とはいえ『La Buche』に続くイギリス映画『The Intruder』では、うらやましいほどに均整のとれたヌード

を披露しているのだけど。さらに現在、某有名化粧品メーカーからイメージ・モデルのオファーも来ている

という。今後の予定はJ・ドパルデューやJ・マルコヴィッチと共演するTVドラマ・シリーズ、イヴァン


4作目にあたる共演作が撮影待機中と、まさに堰を切ったかのような活躍ぶり。このポジティブな魅力

に満ちあふれた新たなシャルロットからは、当分目が離せそうもない。