シャルロット・ゲンズブールは自他共に認めるウッディ・アレンの大ファン。そこでパリ滞在中の彼への

インタビュー役を自ら買って出た。監督術や女性観など、鋭い質問にウッディも緊張気味?

シャルロット(以下C.G) いつも何をヒントに脚本を書き始めるんですか?

ウッディ(以下W.A) 街をぶらついたり、新聞を買ったりしているときにアイディアが浮かびます。それを書き

留めておいて、後からああでもない、こうでもないと練り直す。何も浮かばないときはホテルの部屋に閉じこ

もって、電話線をはずしてしまう。そうしてベッドに座って、床をじっと見つめる。永遠にそうやっているわけに

もいかないから、やがて何か浮かぶ。こうやって僕の出来のいい脚本を生まれてきたんです。まぁ、出来の

あまりよくないのも同様なんだけど。

C.G 監督より脚本を書くほうが実はお好きなのでは、という気がするんですが。

W.A そうですね。自分のペースでできますからね。脚本の執筆はいつでも好きなときに始められるし飽き

たらクラリネットを吹けばいい。ところが撮影中は、目覚し時計に朝6時にたたき起こされ、まだ外は真っ暗

で寒いのに現場に出かけていかなければならない。周りが言うことといえば「早くしてください」か「それは

予算オーバーです」とか、そんなことばかり。朝から晩までそういう調子ですからね。

C.G ハリウッドについてどう思いますか?

W.A 一言でいって、僕には向かない場所ですね。いま、ニューヨークにすんでいるけれど、パリに移住


するのはまったくOKなんです。大好きな街ですからね。ところがハリウッドは、僕の生活と別次元にある。

たとえば天気。一年中、太陽光線がギラギラ降り注ぎ、いたたまれない気持ちになります。ニューヨーク

やパリには、少なくともちゃんと四季がある!それに、アーティストとか、政治家とか、編集者とかいろん

業種の人と交流できるでしょう?ところがハリウッドでは、全員がショービジネス関係者で、お金のことし

頭にない。プロデューサーたちは俳優をばかにしているから、彼らは気の毒なことに、へんてこなSFや

ホラーや、目も当てられないリメイクにしか出演できない。あなたも行かないほうがいいですよ。

C.G でも今度の作品には、デミムーアとかロビンウィリアムズといった、ハリウッドを象徴するような

優が出演していますが?

W.A 役柄に合った俳優なら、ハリウッドの俳優だろうが誰だろうが、どうでもいいんです。あの2人は

れぞれの役にいちばん合う俳優だったから出演を依頼したんです。もちろん彼らは有名ですが、有名

だから選んだわけじゃない。クッキーという娼婦がでてきますが、あの役には映画出演が初めてという

女性をキャスティングしました。彼女は完璧に演じてくれましたよ。

C.G あなたは「地球は女で回ってる」の主人公ハリーを自ら演じています。どうしてもあなた自身の姿

がだぶるのですが...

W.A ハリーと僕の違いをわかってほしいとは思いますが、それは過大な要求というものなんでしょうね。

ハリーの女性観、宗教観、科学や芸術に関する考え方は、すべて僕自身のものですからね。でも彼の

生活は僕の生活とはだいぶ違う。僕は早起きだし、ジムに行き、ちゃんと仕事をし、暇な時間には趣味

の音楽の演奏もする。ハリーはアルコール依存症で、薬漬けで、女狂いで、あげくの果てには自分の

子供すら誘拐してしまう。とんでもないやつです。あれが僕だったら大変です

C.G 「地球は女で回ってる」には、「ピントが合わない男」というのが出来て、画面でもピントが合ってい

ないんですが、あのアイディアはどこから?

W.A ここ25年くらい、ずっと自分が「ピントが合っていない」ような気がしていたんです。周りの人間は誰

もが、やるべきことを的確に把握しているのに、自分だけは濃い霧のなかにいるような....。脚本を書いて

いるうちに、これはハリーが抱えている問題でもあるということに気がつきました。それで彼を実際にピン

ぼけにしてみたわけです。

C.G あなたは仕事とプライベートのどちらを大切にしていますか?

W.A プライベートです。仕事は大好きですが、撮影中にどうしても見たいバスケットボールの試合や、

好きな女性との約束があったら、すぐ「残念だけど今日はこのへんで」と切り上げてしまいます。

C.G あなたの映画では、いつも女性が鍵を握っています。女性とのほうが仕事をしやすい?

W.A 女性のほうが好きなんです。女系家族のなかで育ったせいかな。母、妹、母の7人の姉妹、従姉

妹たち....親友はみんな女性だし。よく考えると、僕には本当の意味での男の友達は、ひとりもいないの

かもしれない。

C.G 最近おもしろかった映画は?

W.A アン・リー監督の「アイスストーム」。今年見た中で最高によかった映画のひとつです。

C.G もし可能だったら、監督をやめてミュージシャンに転向したいと思いますか?

W.A 実を言えば、ミュージシャンとしてはあんまり才能がないんです。もし才能があったら、バドパウ

エルみたいな天才的なジャズピアニストになりたい。映画監督よりずっと楽しいような気がしますね。