半年前にパートナーの俳優イヴァン・アタルの子供を出産し、26歳の新米ママになったシャルロット。現在

は子育て休暇中だが、除々に仕事に復帰する予定だという彼女に、パリで特別インタビューに
成功。母親

になった現在の心境、出産前に撮影した最新作「ラヴ etc.」について聞いた。

シャルロットが待ち合わせ場所に指定してきたのは、父・セルジュ・ゲンズブールの住まいがあったパリ

7区のヴェルヌーユ街から1,2分のところにあるホテルのラウンジ。アールグレイをカップに注ぐ
彼女の長

い指先・・・その何気ない動き・・・・時刻はもうじき午後4時・・・・ここはロンドンかと一瞬
錯覚しそうになる。

イギリスとロシア系ユダヤ人の血を引き、フランス文化の土壌で育った「世にも
見事なミクスチャー!」

である彼女の姿にしばし見惚れてしまう。偉大なアーティストを両親に持つ
サラブレッドの気品というか

オーラのようなものが彼女を包む。たとえ彼女が極端なはにかみ屋で
決して目立つ仕草をするわけでなく、

むしろ控えめで地味な存在であろうとしても、それは隠せない
何かなのだ。彼女は6ヶ月前に母親になった。

男児、ベン君の26歳の新米ママである。

「すべてが変わったわ。子供はずっと欲しかったけど、現実は理想をはるかに超えていた。まず、自分

が人生の中心じゃなくなるの。私の人生は子供を軸に回りだした。かといって、私という人間が変わったわけ

ではない。ただ人生観は変わる。私はペシミストだった。過去を向いて生きてた。将来のことを考えるのが

怖かった。それが妊娠したころから、その日その日が幸せで、未来を見て生きたいという気持ちが芽生えた。

自分より大切なものが存在するの。それは本当に大きな違いよ」

自分が母親になると、自分の母親(ジェーン・バーキン)との関係も変わるもの?

「自分でも驚いたんだけど、彼女が生きてきた人生みたいなものをはじめて認識したの。それまでは彼女

は私の母で、私は彼女の娘で、それだけだった。けど、出産体験って強烈で、彼女もこれを経験したんだっ

て思うだけで彼女を身近に感じた。彼女に関するいくつかのことが理解できた気がした」

妊娠・出産・育児で仕事を離れる直前の作品が、日本での最新公開作となる「ラヴ etc」。撮影は2年前の

冬、ラストシーンからスタートした。主人公3人が21世紀の初日の出を海岸で見ているシーンだ。

「あの映画は、珍しく私から監督「マリオンヌ・ヴェルヌー」に出たいって依頼したの」

この3人がこの日に至るまでに生きたドラマが、映画の軸となる三角関係だ。ブノワ(イヴァン・アタル)と

マリー(シャルロット)のカップルが誕生するところから物語は始る。ところがまもなくブノワの無二の親友

ピエール(シャルル・ベルリング)が、マリーに愛の告白をする。最初マリーは彼を相手にしないが情熱に

根負けしたのか、だんだんガードを緩める。それを察知したブノワはとても苦しむ・・・・。

「マリーは、状況にただ身を委ねるところがとてもずるいと思うの。ピエールは3人の中で最も素直で正

直。自分の感情にあくまでも忠実に行動したのは彼ね。もちろん一番傷ついてるのはブノワ。友情が裏切ら

れることほど辛いことってないわ」

イヴァン・アタルは「愛を止めないで(90年)」で共演して以来、シャルロットの私生活の伴侶でもある。

そんなことも重ね合わせながら、もし、あなたの彼の親友に愛を告白されたらどうする?と聞いてみた。

「私はマリーほど卑怯じゃないはず。誰を本当に愛しているのかって、自分の気持ちを問いただす勇気

を持ちたいわ」

じゃあ逆に、あなたの親友があなたの彼に言い寄ったら?

「私って嫉妬心が強いから、ブノワみたいに長いこと黙って耐えたりできないと思う」

イヴァンとの共演は3回目だけど、私生活と仕事の境目がなくなったりしない?

「私生活を仕事に持ち込むことはない。仕事が私生活に入り込むことは、仕事柄当然だと思ってるから

平気よ。そういう人生を私たちで選んだんですもの。無意識のうちに、家でも役の延長を演じてたりして

、一種の遊戯かな・・・それはそれで楽しいの」

子供ができたからといって、仕事をやめる気は毛頭ないそうだ。しばらくは育児に専念したいま、復帰を

除々に考え始めている。彼女の人生にとって仕事=演じることは必要不可欠なことなのだ。

「仕事してないときに特にそう思うの。欠如感に見舞われる。演じることの歓びは私にとってかけがえの

ないことだと改めて思い知らされるから・・・・。なぜ演じるのかと聞かれたら、喜びがあるからと答える。

その喜びって、一言ではいえないけど、役の中に自分を埋没させること、かな? 喜びを感じなくなった

ら、そのときに辞めるわ」

映画初出演は12歳のとき。その年齢の子を探しているというので、面白半分にオーディションを受けた

のがすべての始まりだった。オーディションのことさえ忘れていたら呼び出された。もちろん嬉しかった

けど、別に「女優になるぞ!」という気構えは当時は全くなかったそうだ。

でも、それから早くも14年ものキャリアを積んだ。

「あえて意識しなかったし口にもしなかったけど、本当は小さいときから女優になりたかったんだと思う

の。演じることの味はいつの間にか知っていた。だから仕事を続けたのね。初めて自分の仕事の意味を

意識したのは「小さな泥棒」の撮影中。以前は、撮影は楽しいヴァカンス感覚で過ごして、監督を喜ばす

ことがうれしかったの。喜びの基盤が他にあったのね」

今までで一番好きだった役は?

「舞台で演じた「オレアナ」、もう最高に厭な女なの。でも強烈なの。自分とはかけ離れた存在なんだけど、

彼女のこと、理解できた。すごく物事に対してハッキリしていて、極端な性格の持ち主で、他人に恐怖心

さえ与えるの。演じていて、観客が私を憎んでいるのが肌に伝わるの。あの感覚は忘れがたい・・・・」

シャルロットは「自分は物事を前面肯定したり、何かに確信をもてるタイプじゃない」と言う。そんな彼女が

正反対の人物にもなれる、それが演じることの醍醐味だろうか?いまは存在するだけで輝いているシャル

ロットだけど、彼女にはまだまだ私たちをびっくりさせるような未知のキャパシティが隠されているような気

がする。恵まれた天性と豊な人生経験をどう演技にフィードバックしてくれるか、楽しみだ。

text/Michiko Yoshitake   photo/Kate Barry