「僕の妻はシャルロット・ゲンズブール」の言わずと知れたおしどりカップルが帰ってきた。といっても今度の

新作は前作の続編ではない。そのうえコメディとはいえ、テーマは夫の不倫。前作でモテるシャルロットに

常時やきもきさせられていたさえない夫を演じたイヴァン・アタルは、今回リベンジとばかりに、彼を愛する

妻、ガブリエル(演じるはもちろんシャルロット)を、愛しつつも裏切る夫に扮する。しかも前作同様、脚本・

監督も自ら手がけて、だ。というわけで誰もが気になる夫婦間の恋愛感情、嫉妬、不倫における男女の差

を、ふたりにざっくばらんに語ってもらった。

取材が苦手なシャルロットと言われているけれど、イヴァンがいるせいか今回はずいぶんリラックスして

いた様子。ユーモラスで息の合ったふたりの掛け合いに、このカップルの秘訣を一瞬かいまみたような

気がした。

ー(シャルロットに)夫が妻は裏切るという作品のプロットを最初にきいたとき、あなたはショックを受けた

とか。

シャルロット 「ええ。でもそれはわたしがすぐにパーソナルな感情に結び付けてしまったからなの。いった

いなぜそんなアイディアを彼を思いついたのかしらって。でもイヴァンは子供たちの同級生の親を見て、離

婚家庭が少なからずあることにインスピレーションを受けたのよ。たしかに最初は心配もしたけど、今考え

るとそれは取るに足らないことだった。一旦脚本を読んだらとても気に入ってぜひ演じたいと思ったの」

ー(イヴァンに)不実な夫の役を自作・自演するのはかなり勇気がいるのでは?

イヴァン 「でも当初は自分で演じるつもりはなかったんだよ」

ーどうして気が変わったんですか?

イヴァン 「僕のような良い役者を見つけられなかったから(笑)。でも自分でやることにして初めて、この役

が一番曖昧だと気づいて演じるのが怖くなった、それで少し書き直したんだ、でも不思議なことにこのキャラ

クターだけ、どうしても曖昧なイメージしかもてなかったんだよ」

ーそれは彼の人物像があなた自身とかけ離れているからだと思いますか?

イヴァン 「もちろん」

シャルロット (くすくすと笑う)

イヴァン 「本当だよ!」

ーシャルロット。あなたはガブリエルの選択についてどう思いますか。つまり不倫をしている夫と全面戦争

になるより、
家庭を維持するほうを選ぶという。

シャルロット 「うーん・・・(言葉につまる)」

イヴァン 「僕の見方としては、ガブリエルは真実を知らない。映画のなかで夫について描かれていること

は観客には
見えても、彼女には見えていないわけだから」

シャルロット 「彼女は疑惑を抱いている。確信はないけど、そうした疑いを持ちながら暮らしていく辛さは

想像できる。
シナリオを読みながら私は、彼女の行動があまりに気高く寛容なので理解するのに苦しんだ

わ。だって私が同じ立場
にたったらあんな風には振舞えないもの。その一方で「あなたがわたしを裏切っ

ているのはお見通しよ、出て行ってやる」
というのもイージーすぎると思う。現実はもっと複雑じゃないかなっ

て」

ーフランス映画だと、概してこういう場合キレる女性が多いようにも思いますが、ガブリエルは違いますね。

そこがとても
オリジナルだと思いました。

イヴァン 「それは僕も同感だね。それにこの映画は不倫自体を描くのではなく、夫婦の問題を見た人

それぞれに考え
させるような作品にしたかったんだ」

ーガブリエルも通りすがりの男性(ジョニー・デップがカメオで出演)に密かに幻想を抱きますね。それ

は彼女が孤独だから
なのか、それともそういう欲望をもともと持っていたるからだと思いますか。

シャルロット 「両方かな、でも彼女の孤独が幻想に浸るのに拍車をかけていると思う」

ーちなみにジョニー・デップの選択はどちらのアイディアなんですか。

イヴァン 「僕だよ」

ーどうして彼を?

シャルロット (くすくす笑い)

イヴァン 「僕が気に入ってるから。それに女性の観客にガブリエルが幻想を抱くのも無理はないと思

わせられるような
説得力をもつ人は誰かと考えて思い当たったのが彼だった。たとえば僕の役を彼が

やって、彼の役を僕が演じたとしたら
ぜんぜん説得力なんてないだろう?」

シャルロット 「あら、どうして?(笑)」

イヴァン 「だってたった5分のシーンで女性を虜にするんだよ。そういうインパクトをもてる俳優が必要

だったんだ」

ー彼と共演してどうでした?

シャルロット 「3日間だけの撮影だったけど、マジックのようだった。彼はとても好感が持てる人で魅力

的で、ちっとも
気難しくなかった。本当に素晴らしかったわ」

ー(イヴァンに)それにしても前作のテレンス・スタンプといい。ジョニーといい、あなたはシャルロットの

共演者にいい男
ばかりを配役しますが、カメラの裏側でつい嫉妬するようなことはないですか。

イヴァン 「たとえ前作が嫉妬についての話しで僕が嫉妬深い男を演じていても、僕自身はぜんぜん嫉

妬深くないよ」

シャルロット (くすくす笑う)

イヴァン 「本当だよ。もし僕が嫉妬するとしたら、そこには理由がある。(シャルロットに)君は笑ってい

るけどね!」

シャルロット 「何も言ってないわよ(笑)」

ーあなたはどうですか、シャルロット。嫉妬深いほうですか。

シャルロット 「うん、わたしは嫉妬する」

イヴァン 「彼女は嫉妬深いよ!」

ーたとえばイヴァンがあなたなしで映画を撮るとしたら嫉妬すると思いますか。

シャルロット 「えぇ、もちろん他の女優に惹かれるのはわかるし、そういうときがいつかはくると思うけど、

傷つくでしょうね。
相手が女優かどうかにかかわらず、問題はそれだけ向こうに関心が言ってしまうこと。

映画を作るのには長い時間が
かかるし、監督が役者たちにどんな視線を注ぐかもわかっているから、

そこに参加できないのはとても辛いことだと思う」

ー(イヴァンに) そういう日が来る可能性はあるのでしょうか?

イヴァン 「うん。でも今はシャルロットを念頭に次回作の脚本を書いているよ」

ー映画では女性よりも男性のほうが不実でしたが、現実はどうだと思いますか。

シャルロット 「うーん。一概にはいえないわ」

イヴァン 「男と女はすごく異なるけど、それは忠実さの問題だけじゃなくてその行為のもたらす影響も

違うと思う。たとえば
男が簡単に女性と寝ても彼にとってたいしたことではないのに比べ、女性はーまぁ、

僕は女ではないけれど、友達や姉妹
なんかと話していると、同じことを女性がしてもそれが彼女たちに

残すものは肉体的に男とは違うような気がするんだ」

シャルロット 「そういう意見は癪にさわるな」

イヴァン 「そうか、君は反対か」

シャルロット 「それって社会的な偏見じゃない? 同じことを男がしてもたいしたことにならないのに、女

だと容易に
受け入れられないっていう。もちろん肉体的な違いはあるわけだし、男性だけがリベルタン(因

習や倫理に捕われない
放蕩者)の権利を与えられているかのように言うのは・・・」

イヴァン 「僕がいいたかったのは実際に女性が「気に入ったからというだけで男性と簡単に寝られない」

って言うのを
聴いたりするからなんだ。じゃあひとつ僕らで実験しようよ。今晩ふたりで別々に出かけて、

僕は女の子を引っ掛ける」

シャルロット 「わたしは男性を引っ掛ける(笑)」

イヴァン 「それで実際それがどれぐらい僕らのなかで位置をしめることになるのか、比べてみようじゃな

いか」

シャルロット 「いいアイディアだわ(笑)」

ーじゃあぜひ結果を教えてください!

シャルロット 「あははは」

イヴァン 「じゃあ明日またこの時間に、ここで報告するとしよう(笑)」