ほんとうにいつまでも変わらず、少女のような愛らしさを持つシャルロット・ゲンズブール。公私にわたる

パートナーであるイヴァン・アタルとともに作り上げた「ぼくの妻は シャルロット・ゲンズブール」では映画

の中の"女優・シャルロット"を自ら演じ、以前にもましてイキイキとスクリーンの中を跳ねまわる。

彼女は三十路で子供も産んでいるはずなのに、一体どういうことなの…..? その秘訣を尋ねると

「体内成分に関係があるって聞いたことがあるわ。アドレナリンがたくさん出てると皺ができるのが遅く

なるらしいの。だから、わたしはゆっくりとしか歳をとらないのかもしれないわね(笑)」とのこと。

まぁ、ステキなパートナーを見つけて、常にドキドキしつづけるとシャルロットのごとく 若さを保てるか

もしれません!

―とてもかわいらしくて、ほんとうに愛らしい映画ですね。

「どうもありがと」

―同じシャルロットという名前の役柄を演じるにあたって、一番気をつけていたことは何ですか?

「そうね、わたしも撮影を始める前にいろいろ考えたわ。観客が実際のわたしと映画のわたしを混同

してしまわないか不安だった。この作品のフランス語のタイトルは、邦題とは違って(原題は「ぼくの妻は

女優」)、わざとわたしの名前を出してないの。観る人がこの映画をわたしの私生活を描いた映画だと

勘違いしないように気を配ったからなのよ。この作品はわたしについてのドキュメンタリーでもなく、完

全なるフィクションってわけ。深刻なドラマ仕立てになっていたとしたら、みんなに「あのふたりは自分た

ちのことをシリアスにとらえすぎだ」なんて思われて、実際のわたしたちと映画の中の役割を演じている

ふたりとの間にぜんぜん距離がないって思われるんじゃないかと、もっと心配になっていたかもしれな

い。でも実際はそんなことぜんぜんなくって、イヴァンは自分たちのことをシリアスにとらえるどころか

茶化してしまっているわけだし、どんなふうに、どんな映画が撮られるかをちゃんと理解した時点で、そ

れまでの不安も吹っ飛んでいっちゃったわ」

―そうですよね。実際、こうして目の前でお話しを聞いていると、あなたの声のトーンや雰囲気が映画と

はまったく違う感じがするんです。同じ名前のシャルロットさんなわけですが、映画の中ではぜんぜん

違ったキャラクターになっていて、そういう姿は本当の自分とはあえて違うキャラクターを演じられたとい

うことなんでしょうか?

「あら、どちらもわたしよ(笑)。もちろんあなたの目の前にいるわたしは、ふだん生活している素のわたしと

は少し違うかもしれないけれど….。わたしはどっちかと言えば、とってもシャイな人間だから。もちろんわた

し自信が映画の中の役割に似て見えるかもしれない。 でも、完璧にそのままのわたしってわけでもないの。

映画の中でのシャルロットをオープンで陽気な性格で、なんの悩むもなさそうにみせるよう努めたつもりだ

し、実際、映画の中の彼女はそうでなくっちゃいけなかったの。と言うのも、イヴァンの度を越して嫉妬深い

自分の妻の職業を不満に思っている夫の役柄との対照を際立たせなくてはいけなかったから。このふた

りのバランスが大事だったわけなのよ。妻は自分の職業に大満足で、悩みや問題なくイキイキしているふ

うに見せるのが重要だったわけ」

―それはきっと、イヴァンの役についても言えることですよね。

「現実の彼はぜんぜん嫉妬なんてしないわ。映画の中の彼は、思いっきり誇張されているの。実際のとこ

ろ、嫉妬に関して言えば、わたしのほうがイヴァンの役に近いくらいなんだから(笑)。彼の役が妻に嫉妬

するあまり攻撃的になってしまったり、反対にナーヴァスになったりしているのは、役割上キャラクター

が大袈裟に描かれているからなのよ」

―できあがった映画をご覧になって、スクリーンの中で新しいご自分や彼の姿を発見した、ということは

ありましたか?

「自分で自分の姿を見て?……びっくりすることはなかったわ。わたしってふだんから自分の対しては

本当に批判的だから、今回に関しても同じような感じ観ていたし。驚いたのはみしろ監督としてのイヴァン

の映画の撮り方や、仕事の進め方よ。撮影中、演技をする彼を見て、あんなにイキイキと自由に演じる

俳優なんてそれまであんまり出会ってなかったんだなってことに気付いたわ。今回はイヴァンは監督でも

あったわけで、一度にたくさんのこと、すべてのことに気を遣わなければいけなかったし、彼にはものすご

い責任があったわけでしょ。だからひとたび役者に戻ったときは、監督としての重圧から開放されて自由

になれたわけ。それで、俳優としてまるで怖いものなしで、何でもやってみたいっていう気持ちになったん

でしょうね。もちろん自分が自分の監督だったわけだから、他人から自分の演技を批判されたり、検閲

されたりする心配がなかったっていうこともあるんでしょうけど」

―妻は夫の仕事をそういうふうに評価できるなんて本当に素敵ですね。また惚れ直しちゃったわ、ってい

う感じですか?

「そんなことないわよ(笑)….えっと、でも……やっぱりそうかも(笑)。そうね。明らかに そうだわ!彼のこ

とは尊敬してたし、(監督・自演の作品を撮る事に関しては)頭では彼にできないはずはない、ってなん

の疑いも持っていなかったのだけれど、実際の仕事ぶりを見たときには….わたしは彼の仕事ぶりに対し

ては完全なる傍観者だったってわけ。カップルとしては素晴らしいことよね。本当にいろんなことに魅了さ

れて、驚かされたわ。逆に今回の作品を取り始める以前に予知できなかったことは、ひとたび撮影が

始まると、彼がすべてに対する力、権限を独占してしまうってこと。監督としてはいい素質なわけだけ

ど、毎日いっしょにやっていくほうとしてはちょっと大変なときもあったわね。実際のふたりの生活では

そんなことないんだけど、彼ってひとたび監督になっちゃうと圧倒的な権力者になっちゃうから。撮影

現場では彼に従って、いわれるままに演技しなきゃならなかったよ」

―おふたりは俳優として、「愛をとめないで」「愛されすぎて」「ラブetc」の3作で共演されていますが、

4作目の共演にあたって、最初の3作から変わったこと、だんだん変わってきたことはありますか?

「今回は、前回の3作品とはぜんぜん違ったわ。イヴァンが監督する彼の作品だから、これまでのよう

にふたりの間に監督という第三者がいなかったわけ。そのおかげでいろんなことが今までと同じという

わけにはいかなかったのよ。それまでは、いっしょに撮影してても、彼はひとりの俳優に過ぎなかった。

なのにわたしはいつも彼の目を気にして、「わたしの今の演技のこと、どう思っているのかな」なんて

考えてたの。女優としてのわたしを彼がどう判断しているのかずっと知りたかったのよね。だから今回、

やっとイヴァンに直接指導してもらえて、演技をするのに手を差し伸べてもらうことができたってわけ。

本当に嬉しかったわ。彼の指導者としての視線がずっとほしかったの….」

―今回は監督と女優という関係で、監督にいい女優だと認められたかった、と。

「うん、そうなの。彼に気に入ってもらえるよう演じたかったし、彼の望んでいることに応じようと努力した

わ。イヴァンのわたしに対する要求はとても強いものだったから、わたしも簡単には満足してもらえない

だろうなとは思ってたんだけど。だけど、それで結果てきにはよかったと思うわ。彼に納得してもら
えるよ

う頑張ったつもりよ。もちろんそれは自分自身のためでもあったわけなんだけれど。だって監督の
喜んで

もらえることは、自分でも嬉しいに違いないってわかってたから」

―先ほど、「これは嫉妬をする男のお話し」と言われていましたが、シャルロットさん個人として、嫉妬

深い男性はどうですか?

「映画の中でのイヴァンの嫉妬の仕方は、とっても男性的だと思う。わたしもジェラシーを感じることは

あるんだけれど、それは攻撃的な形となって現れることはないんじゃないかしら。わたしの場合、嫉妬


は自分の中で渦巻くものなの。ひっそりと自分の中に秘めたパラノイア、と言ってもいいんじゃないかな。

いずれにしてもこの作品のイヴァンのように、嫉妬を乱暴に表すことはないと思うわ」

―では、その女性的な嫉妬を心に秘めてしまったとき、どんなふうに克服しようとしていますか?

「わたしは秘密めいたところもあるけれど、嫉妬は自分の中で抱え込んだままにはしないようにして

の。ちゃんと話して説明する必要を感じるし、そうやって嫉妬を表に出すわけ。それから後は、わたし


嫉妬の必要はないと納得させるのが彼の役目よ(笑)。そうやって考えてみるとやっぱり、女優業や
俳優

業ってカップルを危機に陥れる可能性が充分にある職業よね。だけど、それがネガティブなこと
だとは思

わない。ふたりの人間には、ときには危機感を感じることも必要だし、それまでのできあがっ
た関係にあ

ぐらをかいてしまってはいけないんじゃないかしら、だから、かえっていいことだと思うわ」

―日々、いい関係でいつづける、ちょっとしたコツでもあるわけですね。

「ときには、不安定な関係も悪くないんじゃないかしら、なんてね。ふふふふ」

text/Itsuko Hirai