シャルロットゲンズブールが前作「ラヴ etc...」から実に3年ぶりにスクリーンに帰ってきた。そう、「ラヴetc...」
でも共演した長年のパートナー、イヴァンアタルとのあいだに3年前めでたく男の子を出産し(つまりセルジュ
ゲンズブールとジェーンバーキンの孫だ!)、2年間どっぶり育児に専念した後、この度待望の復帰を果たし
たのだ。シャルロットはこのインタビューで本人もそう認めるように、人間として、また女優として、大きな変貌
を遂げた。今回の新作、家族をテーマにした群像劇「ブッシュドノエル」で彼女が演じるのは、気が強く自分
勝手な三姉妹の末っ子。あの、いつも力なく微笑み、消え入りそうな声で喋っていた少女のようなシャルロッ
トが母親になったというだけで充分驚くのに、今年の初夏、横浜で行われたフランス映画祭にあわせ来日
した彼女自身、明らかに昔のイメージとは大きく変わっていた。はにかみ屋な雰囲気はそのままながら、
インタビューに答える声には自身が満ち溢れ、妊娠、出産という人生の一大イベントを幸せいっぱいに語る
のだ。言うまでもなく「なにをやっても両親より上手くできない・・・」と、あまりにも有名すぎる両親へのコンプ
レックスに悩む少女の姿は、もはや影も形もなかった。彼女がフランスを代表する女優のひとりとして本当
に面白くなるのはそして本当に責任を持ってチャレンジしていくのは、まさにこれからなのだ-そんなことを
確信させるポジティブなエネルギーが、新生シャルロットを満たしていた。
−「ラヴ etc...」以来、日本では3年ぶりの公開となる新作、「ブッシュドノエル」はとても面白い映画でしたが、
やはりカムバック作品ということで、作品選びには特に慎重になっていたんですか?
「実は子供を産んだ後の復帰第一作は、ブルーノニュイッテンの「Passionnement」で、その次がデビッド
ベイリーの「The Intruder」、そしてその後が「ブッシュ〜」なの。「ブッシュ〜」の方が先に公開されたから、
復帰第一作のように見えちゃうんだけど、撮影の順序から言うと3番目」
−じゃあ、復帰後の作品選びに特別慎重になったということはなかったですか?
「ええ。でも確かに、本当にやりたいと思える仕事が見つからなかったらどうしよう、という恐怖はすごく
・・・すごくあったわ。赤ちゃんが生まれて、人生も前に進んではいたけれど、仕事のオファーはそれほど
なかったから、次の仕事が決まっていないという状況っていうのが、恐怖だったの。復帰してからはすべ
て順調に進んでるけど。でも・・・・仕事一辺倒の生活からいきなり仕事ゼロの世界に入って、また仕事に
戻るっていう、そのギャップのすごさが予想外のものだったのよ」
−なるほど。
「そういう意味ではちょっとつらかったわ」
−「ブッシュ〜」は私も本当に気に入った作品なんです。あなたが中心的キャラクターで、あなたの心の動
きに焦点を当てていた「ラヴ etc...」や「愛されすぎて」や「愛をとめないで」なんかと比べると、「ブッシュ〜」
は出演者全員が主役という感じで、そこがあなたの今までの作品と比べるとすごく新鮮な感じがしました。
あなた自身、そういった以前とは違う作風の映画に出てみたいという気持ちはあったんでしょうか。
「確かにそうね。これまでの出演作はどれも、私が演じる女性キャラクターだけに重点が置かれていたから、
逆に今回みたいにほかの共演者全員にサポートしてもらえる作品に出られると、本当に嬉しくなるのよ。
特に「ブッシュ〜」の共演者は私が心から尊敬してる人たちばかりで、いい経験になったわ」
−また「ブッシュ〜」はフランスではロングランヒットしましたよね。これまでの出演作とはかなり違ったタイプ
の作品に挑戦して、それが大ヒットしたというのは、あなたにとっても大きな喜びだったんじゃないですか?
「そうね。もう長いことああいった成功を味わってなかったから」
−そうですか?(笑)
「たぶん「小さな泥棒」か「メルシーラヴィ」以来なんじゃないかな。それ以降はどの作品もヒットしてくれなか
ったから。だけど、この作品は本当に大ヒットしてくれて・・・映画がヒットしたときに感じる喜びってけっこうす
ぐに忘れちゃうものなんだけど、今回思い出すことができたわ、ふふふ」
−どんな気分でした?
「とても素敵な気分よ(笑)」
−そして少なくとも私には、「ブッシュ〜」ではじめてあなたが実際の歳相応に見えたんですよ。
「ええ、本当に! ほんとその通りだわ!」
−いつも幼く見えていたあなたが、今回ちゃんと30歳の女性に見えるのは、母親になったことが影響してる
んでしょうか?
「んー、どうなのかなぁ・・・もしかしたらそのせいかもしれないけど。でも今回は、可能な限り大人っぽく見
えるように、いろいろ工夫したのは事実よ。姉妹役のほかの2人と並んだときに、ちゃんと設定通り30歳に
見えなきゃならなかったし。だから、髪型とか、いろいろ工夫したわ。本当に、ほかの出演作では、髪が短
かったこともあって、実際よりずっと若く見えるわね」
−髪型以外に喋り方もいつもとかなり違ってたんじゃないですか?
「ええ、ずうずうしくて、強引で(笑)」
−本当に、あんなにきつい性格の役を演じるのはきっと初めてですよね。ところで、2年間休んで子育てに
専念されていたわけですが、「ブッシュ〜」の最後であなたが「お母さんはなんでも知っている。お母さんは
偉大だ」と語るシーンがあります よね?
「ええ、そうね(笑)」
−あなた自身、子育てを経験して、そう信じるようになりましたか?
「母親はなんでも知っている、って? まさか! 逆に、そうであってほしくないくらいよ。だって、私は世の
中のすべてを知りたいとは思わないもの。なにもかもすべてお見通しの人間になんて絶対なりたくないもの」
ーでは、あなたは映画では我がままな末っ子を演じているわけですが、実際、彼女のようにクリスマスや家
族なんてうんざり、という感情を抱いたことはありますか?
「いいえ、その点は私は彼女とは正反対なの。私は昔ながらの家族の習わしが大好きだし、そういう・・・
自分の“生まれ”を確認できる行事にすごく親しみを感じるのよ。クリスマスも大好きだし毎年ロンドンの
母方の家族と一緒にすごく素敵なクリスマスを過ごしてきたから、私の中ではすごく楽しいイベントとして
思い出に残っているの」
−今回久しぶりに映画の仕事をして、休養前とはどこか違いを感じたりしましたか?
「うん、そうね・・・ひとつの作品から次の作品に、初めて間を置かずに演じ続けたの。「TheIntruder」が終
わった1週間後にはもう「ブッシュ〜」をやってたから。生まれた初めて、ちゃんとした休みを取らずに次
の作品に入ったの。でもそうすることで、作品に対して疑問や恐怖を抱く暇もなく次の撮影に入ることになっ
たのが、逆に私にはすごくよかったみたい。いちいち悩む暇もなく、ありのままの状況を受け入れていくしか
なかったからよ。でも・・・もちろん今までとの違いはすごく感じてたわ。子供が生まれたことで、私の人生
そのものがいい意味ですごく以前と違ってしまったから・・・なにより私自身が変わったっていうか」
−ええ、私も「ブッシュ〜」を観て、あなたがすごく変わったように感じました。以前より自信にみなぎって。
「っていうか、今回は役柄からして自信がなきゃ演じられないものだったから。なにしろ彼女はものすごく粗
っぽい娘で。なんでも言いたい放題だし、姉妹に対してもすごく喧嘩腰しでしょ。そういう意味で、やってて
とてもおもしろかったわね。今までああいう役をオファーされたことが一度もなかったから」
ー本当にありませんでしたね。あなた自身は、あのがらっぱちなキャラクターにどれくらい自分と近いもの
を感じてたんですか?
「すごく似てると思ってたわ。だけど、他の人はそれを意外に思うみたい。みんな、私のことをすごく静かで、
か弱い人間だと思ってるのよね。本当は違うのに・・・」
−ええ。か弱くて、ティーンネイジャーのイノセンスをいまだに持ち続けている女の子、的なイメージでみん
な見てますよね。
「あはははは(笑) そう、だから、そうじゃない自分をこの映画で証明することができて、ほんとによかった
と思ってるよの」
−また、あなた自身三姉妹で、母親にもなったわけですけど、それが姉妹や両親との関係というこの映画
のテーマについて考える手助けになった、ということはありませんか?
「もちろんそうだけど・・・でも、私の家族はああいった衝突はしないから、あの家族とはあまり似てないのよ。
姉妹のうち、ひとりを毛嫌いして、もうひとりとは仲良くしたり、ってことがないの。でも確かに、もし自分が
一人っ子だったら、姉妹喧嘩とか家族関係やそういった状況を想像するのは難しかったでしょうね。あと、
もうひとつ、この作品に親近感を覚えたのは、あの家族のルーツがロシアにあるという部分で、それって
まさに私と同じなのね」
ーええ、お父さんのセルジュゲンズブールはロシア系ですね。
「そこにはすごく近いものを感じたわ」
ー休業中に、映画の仕事が恋しくなったりはしましたか?
「もちろん! でも、実生活の方であまりにも強烈なことが起きていたから(笑) 仕事が恋しくてもほかに
考えなきゃならないことが目白押し、っていうのが現状だったの。だけど、2年休んだおかげで、私にとっ
て仕事は人生のバランスを取ってくれる大切な存在なんだってことに気づいたわ。仕事をしていないと、
バランスがうまく取れてないのが感じでわかるの。仕事をするのは、私にとって必要なこと、必然なのよ」
−では休業中に、映画に関われず落ち込んだりといったことはなかったんですね?
「なかったわ。ただ、さっきも言ったように、もう二度と仕事できないんじゃないか、という恐怖はあった。
というか、その恐怖は常に抱いているの。いつか誰も役をオファーしてくれなくなるんじゃないかって」
−本気で言ってます?
「もちろんよ! 簡単にそうなり得るわ。でも・・・んー、当時は子供のことの方が仕事よりもずっと重要
だったから・・・」
−子供を産んだばかりの女性はよく、人生で一番重要なものが、自分自身から子供にシフトした、と口に
しますが、それってあなたにとってもそうでしたか?
「もちろん! 当たり前よ!!(笑) 出産は私にとって本当に必要なことだったの、私とイヴァンが子供
をほしいと思い始めてから、もう何年も経ってたから。彼にとっては待ちに待った子だったのよ。それにし
ても時間がかかったわ(笑) でも、本当にみんな言うとおりで、それまで重きを置いていたこと、重要だ
と思っていたことすべてが、子供が生まれたとたん、そうじゃなくなるの。真に重要なことが見えてくるよう
になって、なんというか・・・・物事に対してもっと穏やかに、もっと平静な気持ちで折り合えるようになった
っていうか」
−そういう変化って、出産しすぐに感じたりするものですか?それとも妊娠前から徐々に変化していった
んですか?
「そうね・・・妊娠中から本当に幸せな気分だったわ。本当に幸せな時間だった。もちろん今もそうよ。すべ
てが変わったし、新しい経験の連続で・・・なんて言えばいいのかしら。とにかく妊娠中も分娩のときも、ず
っと幸せに満たされてた・・・だから、うまく言えないけど・・・とにかくそういうことよ!(笑)」
−ところで、インタビューを受けるのが、以前に比べてとても上手になりましたね。
「本当に? そう思う?」
−ええ、以前はもっと壊れやすいような印象がありましたし。
「今でもインタビューは苦手よ。でも以前は苦手を通り越して、恐るべき存在だったの」
−それはまたどうしてなんでしょう?
「うーん・・・プライベートなことを喋るのが嫌いだったからかな・・・今でもそれは変わらないけど。もともと
話しをすること自体があまり好きじゃないのよ。今でもお喋りな方じゃないし・・・でも、前よりずっとましに
なってきたのは確かよ」
−確かに以前は自分をさらけ出すことを恐れている印象を受けましたね。
「私自身は実際にはそんなに変わってはいないんだけど、ただ、周囲が作った私のイメージや私の発言
として紹介される言葉が、実際の私の喋り方や本当に言いたいことと全く違ってしまっていることがあるのよ。
でも、自分の願っているように物事が進まないことって、よくあるのね。自分の発言を後悔することもあるし
・・・自分のことを話すのって自然な行為じゃないと思うわ。それに、私は女優という仕事をそういう観点から
捉えてないのよ。私にとって女優の仕事はスクリプトを読んで演技をすることだけで、決して作品や自分を
宣伝したりすることではないの。そういうことって、私にとってはひどく不自然なことなのよ」
−それは幼いころから世間の注目を浴びてきたせいなんでしょうか?一種の防衛本能?
「うーん・・・両親はそういうのが大好きだったのはよく覚えているわ。ふたりともパブリシティや名声、それ
にお喋りやインタビュー、写真撮影なんかが大好きだったの。ふたりともいつもそういうことを喜んでやって
いたわ。でも、私は両親とは全然違う性格で。それに常に自分で自分を守らなきゃいけない立場にいるか
ら、100%オープンになって、自分の人生を他人にさらけ出すことにすごく抵抗を感じるのよ。人生の仕事
の部分、女優としての部分について話すのは好きだけど・・・」
−あなたが自分に自信を持てるようになったのはいつ頃からなんでしょうか? すでにパートナーだった
イヴァンと「ラヴ etc...」で再共演したころくらいでしょうか?
「んー・・・しばらくするうちにそうなっていって・・・よくわからないけど、でも前ほどシャイじゃなくなって、
喋ることが恐怖でなくなったような気はしてるの。いつもそうというわけじゃないんだけど(笑)」
−子育てに専念していた2年間の休養は、これからの生活やキャリア、女優としてのあり方みたいなもの
についてじっくり考えるうえで、いいチャンスになったのではないですか?
「ううん、そんなふうには思わなかったし、私は今でも計画ってことがいっさいできない性格なのよ。それに
俳優って本当に不思議な職業で、なにか予定を立てたり、予測をしたりすることができないの。送られてくる
スクリプトに応じるか応じないか、それしかないのよ。自分から予定を立てることはできないわけ。監督の場
合は、自分の意思で前もって計画を立てるのは当然だし、また逆に、それを撮影直前になって自分の意思
で方向転換することもできるかもしれないけど、俳優が前もってああしたいこうしたいとプランを立てるのは
すごく難しいことなのよ」
ー次の作品ではこういった方向に進みたい、将来はこんな作品をやりたいというような期待はあまり抱かな
いものですか?
「ええ。とにかく映画を作り続けたい、いろんな違った種類の役を演じ続けたい、っていうだけなの。エキサイ
ティングなストーリーに接し続けて、常に同じだけのエネルギーを 自分のなかで保っていたい、ってね。そう
することで、女優としてのいろんな引き出しを持ち続けたいのよ。コメディもできればドラマやスリラーもでき
る。それが私にとって大事なことなの」
ーたとえばアメリカのように、エージェントが映画監督に電話をして、「うちのこの女優がこの役をやりたがっ
ている」と話しを持ちかけるような、そういった売り込み方はしないんですか?
「フランスでは、もともと自分を想定して書かれたスクリプトを読んで、その役を受けるかどうか決めるの。
有名な俳優に関してはそういう仕組みになってるわ。でもアメリカじゃ有名無名に関わらず、あらゆる俳優
があらゆるスクリプトに目を通すことができて、やってみたいと思ったら、誰でも挑戦することができるのよ。
役を手に入れることはできないかもしれないけど、やってみたいと思ったら誰でもトライできるわけ。だけど
フランスではそもそも役のチョイスが少ないのよ。自分に向けて書かれたもの以外のスクリプトを読む機
会自体がほとんどないの」
−オファーを待って、与えられた役に関してはしっかりこなしていくだけ、だと?
「そうね・・・と、私は思うんだけれど。もし実際、それがアメリカのやり方なんだとしたらね」
−では、「The
Intruder」はあなたにとって英語で挑戦した2本目の映画ですが今後アメリカ製作の、たとえ
ばハリウッド作品に出演したりする可能性などあると思いますか?
「ん・・・かもね(笑) わからないわ」
−なんの予定もないし、期待もない?
「そう、それに本気でアメリカで仕事をしたいのなら、まずあっちに引っ越さなきゃ・・・あっちで生活しな
がら、いろんな人に直接会って、自分を売り込むしかないのよ。フランスじゃなくてアメリカ本国でね。でも
今の私はパリから引っ越す気なんてゼロだから、やっぱり無理ね(笑)」
text by Atsuko
Fujimoto
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