ー「LOVE
etc...」の中でおふたりは離別するカップルを演じていますね。このストーリーで共演することを引きえうける前に
とまどいはありませんでしたか?
シャルロット(以下シ) 「いいえ、ぜんぜん問題にならなかったわ。だって実は私のほうがこのストーリーにのめりこんだん
だもの。そもそも、最初私は関係なかったのよ」
イヴァン(以下イ) 「マリオン監督に脚本を手渡された時、ぼくはすごく興奮してね、でシャルロットに読ませたんだ」
シ「それで私は自分にとってベストの方法でその脚本を読めたってわけ。つまり、この仕事に関わっていなかったし、
演じることになるなんて考えもしなかったし、という意味でね。そしたらすっかり夢中になっちゃった。でも脚本を閉じて、すぐ
にこの映画をやりたいと思ったわけではないのよ。そうじゃなくて、少しずつ、じわじわと...」
イ「マリオンはさ、脚本を書き終えてからシャルロットのことを考えたらしいんだ。でも、若過ぎると思ったんだって。だから
僕は彼女に言ったんだ、君はもう何年もシャルロットを見ていないだろ。シャルロットは大きくなったんだよ、大人だよ、ってさ。
それからどうやらマリオンにも脈があるらしいので、ぼくはシャルロットの反応を見て勧めたんだ、マリオンに電話して
会ってごらん、って。マリオンはちょうどエッセイを書いてたんだけどね。当初僕はもういっぽうの役をやるはずだった。
シャルル(ベリング)がやるほうをね。ただ確定していたわけじゃなかった。本読みはシャルロットが加わる前に始ってたんだ
けど役はしょっちゅう交換してたんだ。それからシャルルが愛人役をやりたいと言い出してね。というのもシャルルはジャンヌ
ラブリュンヌがテレビ用に作った「突然炎のごとく」のリメイクを終えたばかりだったからさ。シャルルはそこでは亭主役だった
んだ。で、僕はというと実は僕も愛人役がやりたかったんだ。それまでやったどの役とも違っていたからね。その役は「悲しみ
のスパイ」の主役とは正反対で、やたらと話しまくってタバコは吸う、酒は呑む、ってな調子のかなり自滅的なキャラクター
だったんだ。でもシャルロットがやってきたときにはっきりしたんだな、ぼくにはもう愛人役はできないってことがさ!」
−どうしてですか?
イ「一緒に生活してると、いつかなにかで別れるときがくるかもしれない、って考えるほうがずっと自然になるのさ。それに
もし僕が愛人役をやっていたらあまりにも決まりきったカンジだったかも」
−おふたりの親密な部分が危機に陥るような不安は感じませんでしたか?それともある種の邪気払いとか他人ごっこみたい
なものだったんでしょうか
シ「まったくのお芝居よ、危険なことなんて」
イ「他人ごっこ、ってところかな。でもシーンによっては簡単にいかないこともあったよ。撮影が進むにつれて、役者は自分の
役が好きになるものさ。僕なんか、突然ブノワが別人に思えた、彼の転換がすごく潔く思えたんだ。で、あのラストがくるって
わけさ。でも話がシャルルとシャルロットのあいだで進行しだしたとたん、避けるすべもなく、僕の出番はぐっと減っちゃってさ。
それでちょいと心配になって....まいったよなぁ....いや、かなりね!(笑)」
シ「やっぱり映画とはいえ、あったわね。不愉快な....」
イ「うん。でも、君だろう、一番困る生き方をしてるのは。僕なんか、ずっと終始一貫してまともだからね!」
シ「そんなこと困らないわよ、お芝居なんだから(笑)」
−この話しのどこが気に入ったんですか
イ「いつも同じことだけど....だれかと暮らし始めると、他の人たちと出会い、危険なゲームに引き込まれていくよね。どこまで
誘惑しうるか、どこまで誘惑されうるか、っていう。「LOVE etc...」では日々僕らを悩ます、そんなちょっとしたことが問題
だったわけだ。まぁ、結局僕はそういう悩みに無縁なわけだけど....ま、いいや」
シ「私が気に入ったのは、特に脚本だったわ。3人の人物を描きだす、その調子や流儀がすごく生き生きしていたの」
−見事なのは、軽くて、しかも重いってところですよね。こういう二面性を演じるのは難しかったですか?つまり、各シーンに
軽さと深さの両方を織り込んでいくということは。
イ「それは脚本の技だよね」
シ「そうね」
−お互いに別の映画に出演しているときと比べて、今回は役作りについてより話し合う機会を持ちましたか?
シ「報告したり、議論したり、いつもよりずっと徹底していたわね。ふたりして同じ仕事に関わっていたわけだから」
イ「ふだんもよく話すけど、今回ほど相手の話しに耳を傾けたことはないな!同じ仕事に関わっていないときは、シャルロット
は僕に意見を尋ねるし、僕も彼女の意見を求めるけど。台詞を覚えて、夜暗唱するのを聞いたり」
シ「いっぽうがもういっぽうにアイディアを訊くの。私には助けになってるわ」
−「アンナオズが封切られた時、あなたはエル誌で「シャルロットの俳優としての資質には驚嘆させられる」と発言していま
した。そして「彼女が映画の中でイライラしていると、彼女が腹をたてている相手は自分じゃないかと思う」とも言っていますね。
イ「ぼくは心底シャルロットのように演じられたらなぁと思ってる。だって.......(シャルロットがさえぎろうとする)おいおい、よせよ、
まじめな話しさ。ぼくはシャルロットが演技しているとすごくよく彼女がわかるんだ。演技ってものは、映画ではまったくの
別人になることだ、と言う人がいる。僕も昔はそうだった。でも今はもう、そうは考えないんだ。本当に面白いのは、役の中
に深く深く入り込んで、しまいにはひとつの真実を具体化してしまうということだよ。見ると、あぁ、これは本物のシャルロット
だ、って」
シ「........でもそれはやっぱり演技よ」
イ「もちろんそうさ。でも僕が話してるのは役柄のことじゃないんだ。その深さについてさ。僕は君がイライラしている“ふりを
している”のを見ているんじゃなくて、君が本当にイライラしているのを見てるのさ。ともかく、君と知り合って君が演技するの
をつぶさに見るようになって、僕にはわかったことがあるんだ。それが今では目標にさえなっている。覚えてるだろ、ある
シーンを終えた時、僕は君に訊いたよね、これが僕だってわかるかい?って。やりすぎてないか、作りすぎてないか?って」
−で、どうだったんですか?
シ「撮影の時にアドバイスをするのは苦手なの!」
ーでは、撮影中はOKとして、そのあとは? 例えば「悲しみのスパイ」を観てどう思いましたか?
シ「私が気に入ってるのはまさにそれがイヴァンだってわからない、っていう点よ(笑) 役作りに成功していると思うわ。動的な
までにね」
イ「あの役作りをそう見たのなら、それは全然成功していないってことだよ!」
シ「いいえ、成功してるわ! だって私にはあの役があなたではない別の人みたいに思えたのよ。あなたと一緒に暮らしてる、
この私にそう思わせたんだもの。すごいわよ」
−おふたりの話しを聞いていると、役作りの方法が互いに違うように思えますね。
イ「シャルロットはひとりで仕事に向かうね。いろんな色のペンを取り出して、大事なところに線を引いていたよ。赤や黒や緑....」
シ「(困った様子で)でも....」
イ「君はひとりになっていた。僕はよく覚えてるんだ。君は台本を手に出て行きたがるよね。で台本にメモを取るんだ。それは
誰も覗いちゃいけないのさ」
シ「でもあなただって....」
イ「うん、だけど、君の役作りの方が秘密主義さ。たぶん自信の問題なんだろうけど。僕は何かをする時はそのことを人に
話さなきゃだめなんだ。間違った方向に行ってないか、自分がそうだと思っていることが正しいか、そういうことを確認するため
にね。君にいろいろ訊ねずにはいられないんだ。でも、君はずっと内にこもるタイプだよ」
シ「どっちにしても、それは自信の問題なんかなじゃいわ。まったく逆で、台本にメモを取るのは何か拠り所が欲しいからよ。
どうせたいして役には立たないんだけど、そこにメモしてあるって知ってることがダイジなのね。「オレアナ」で舞台に立った
時からの習慣なの。舞台では徹底するのよ。初めての経験だった、2ヶ月もひとつの役で舞台に立つなんてね。本当に
素晴らしかった。色んなことを勉強して、すごく満足したわ。台本にメモを取るなんてバカげてるけど、役の中に入り込む
助けになるの。だからそういう時はひとりになりたいって思うのよ。いかに集中するか、っていう問題でもあるけど」
−自分のアイディアをイヴァンにぶつけてみたくならないんですか?
シ「でもそれは私が実際に演じれば、イヴァンにも自然とわかるわよ!」
ーお互いに驚きや感動をセーブしているみたいですね。
シ「それは書いたものに自信がないからでもあるの。恥ずかしいのよ。私の台本が誰かの目に留まって読まれでもしたらっ
て思うと、ものすごく不安になっちゃって」
−イヴァンがエル誌で、あなたの役者の資質について語ったことについてはどう思いますか?そのことを2人で話しましたか?
シ「お世辞よ。嬉しいけど..... そんな話しをしたことは、ううん、ないわ」
−「LOVE etc....」のあなたの役はあなたにとって、初めての本当の女の役という感じがしましたが?
イ「僕も全く同感だな。彼女が成熟した役を演じたのは、これが初めてだ」
シ「本当の年齢に見えるのが心配だったわ。老けて見えた方がいいって思ってたの。イヴァンやシャルルのまえで、子供っ
ぽく見えたくなかったし。初めてね、ゆったり生活していて、自分にも自信を持っている人物を演じたのは」
−一緒に出演したことで、役者としての喜びはより深まりましたか?
シ「ええ。イヴァンは私に自信を与えてくれたわ、いつもは持てないような自信をね。すごく助けになってると思う。イヴァンに
視線を注がれるのは大好きよ。本当に大きな発見だったわ。ジャクドワイヨンの「愛されすぎて」もあったけど」
イ「それとエリックロシャンの「愛をとめないで」もね」
シ「ええ。でも、あれは共演というようなものじゃなかったもの。「LOVE etc...」は本当の共演だったわ」
−(イヴァンに)映画の中のおふたりの関係はいつも込み入っていますよね。あなたはロシャンの作品では彼女を驚かせ
ようとするし、ドワイヨンの作品では彼女を奪おうとする......
イ「で、今回はとうとう彼女を奪われる、と。これで一件落着さ!(笑)」
−最初に出会ったときのことは覚えてますか?
イ「うん、よく覚えてる」
シ「まったくの最初のときのこと?」
イ「「愛をとめないで」の準備段階のときだった。ロシャンはいつも出演者の役作りのために、映画にはないシーンを いくつ
か書くんだ。で、彼は僕らの役が出会う場面をざっと書いたんだ。それがぼくら自身の出会いでもあったわけさ。あれは....」
シ「カフェの中だったわね」
−その時何を話しました?
イ「もう全然覚えてないな」
シ「思い出せないわ。でも、ビデオでもう一度見たわよね。ちょっと前になるけど」
イ「つまんないことはよく覚えているよ、反対に。僕は緊張して、何かを落としちゃったんだ。で、ふたりしてそれを拾おうと
して同時にかがんだんだよ。(シャルロット、驚いた様子で彼を見る)君は今では思い出しもしないだろうけど、僕は本当に
よく覚えているんだ!で、ふたりともバツが悪くて笑い出したんだ。たわいもない話さ、でも、まぁそんなわけで....僕たちは
いくつかのシーンを撮って、それからまた会わなくなったのさ」
シ「1年の間ね」
イ「そう。君はブリエ監督の「メルシーラヴィ」に出演するために行ってしまった。その間に僕はエリックと「愛を止めないで」を
仕上げたんだ。で、映画が公開されたときに再会したんだよ」
−(イヴァンに)確か、ドワイヨンの作品を引き受けたのはシャルロットと共演するため、と言ってましたよね?
イ「僕がそんな話しをする時はたいては冗談だけど、でも、これは本当なんだ。そんな理由で出演を引き受けるなんて
考えられないだろうけど、僕は当時本当に彼女にぞっこんだったんだよ。ドワイヨンが「愛されすぎて」で誘ってくれた時、
シャルロットとの再会の絶好のチャンスだと思ったんだ!」
シ「(納得しない様子で)え?でも違うわ。私たちの関係が始ったのはもっと前のこと....」
イ「違うよ。僕がドワイヨンに初めて会った時、僕たちはまだ一緒じゃなかった。確かだよ。映画に出ないかって誘われたとき......」
シ「あなた、作品を間違えてるんだわ」
イ「とんでもない。もうひとつのは3.4ヶ月前で映画の方はまだだったよ。そのかわり、その映画は僕たちが撮影に入る前には
ほとんど終わってたけど(笑)」
シ「(納得したふりで)あ、そうね!」
−知り合うまではお互いにどんなイメージを持っていたんですか?
シ「私は「愛をとめないで」の役柄をイメージしてたわ」
イ「シャルロットは僕がサッカーのシャツを着てるような男だと思ってたのさ」
シ「母が言ってたわ、あの人の映画、観たわよ。本当にいつもあんなブリーフをはいてるの?ってね(笑)」
−映画はすでに観ていたんですか?
シ「愛さずにいられない」は観てたわ」
イ「僕の場合はシャルロットの作品は全部実際に観ていたよ。といっても、シャルロットは14歳と6ヶ月にして、すでに
350本だったからね。全部っていうのは大事な物全部っていう意味だけど。残念なことに僕たちは出会った頃、好きな
役者についても映画についても、意見が一致しなかった。少しずつお互いに影響しあって、今では何でも殆ど同じ意見に
なったのさ。ま、2〜3の例外はあるけど。以前はデニーロやパチーノの映画を観ても、ま、彼らは本物の役者だけどさ、
たいしたものとは思わなかった。シャルロットが教えてくれたんだよ、他の物もあるってこと、つまり演じる事が全てでは
ないってことをね。シャルロットのおかげで一瞬一瞬の真実を見ることもとても大事だってことがわかった。それまで、僕
は役者が役を作っているのを見るのが好きだったんだ。その昔、僕を惹きつけていたものは、今だんだん影が薄れてきて
いるんだ」
シ「私はイヴァンのおかげで、70〜80年代のアメリカ映画を発見したの。意外にも、私はスコセッシ、シドニールメット、
コッポラ、デパルマっていうあたりをすっ飛ばしていたのよ。これで遅れを取り戻した、ってわけ」
−で、あなたはイヴァンに誰か映画人を再発見させたんですか?
シ「(しばし沈黙)ビリーワイルダー、知ってる?」
イ「うん。でも昔は今ほどファンじゃなかったよ。「お熱いのがお好き」をこのあいだ観たばかりだな」
−(シャルロットに)あなたは映画業界の中で成長したわけですが、イヴァンとくらべてどうですか?彼より事情に明るい
とか警戒心が強いとか。
シ「私は警戒心が強いわけじゃないわ。ただこの業界の危うさを知っているだけ。役者の仕事のはかなさも知っているし、
浮き沈みがあるってことも」
−おふたりは職業上の管理方法という点でお互いに似てますよね。例えば、2年間映画に出演しなかったわけですが
脚本を渡されてもそれを断る事ができるのはどうしてですか?慎重さでしょうか?それとも要求度が高いのでしょうか?
イ「慎重でもないし、要求度が高いわけでもないよ。僕たちはふたりとも脚本を気に入って、これからやろうとすることに
自信が持てないとだめなのさ。それ以外のどんな理由で出演を承知するっていうんだい?女と知り合うってことかい?(笑)」
シ「今のところ、本当にやりたいから作品を引き受けるというチャンスに恵まれているわ。でも反対に、時間が経つにつれて
どんどん決断できなくなるの。ほんとよ、どんどん臆病になってしまう。脚本読みも簡単にはいかなくなって、何もかもうまく
いかなくなるのよ。これって落とし穴ね」
イ「受け取る脚本の中から選ぶわけだから、選択の可能性はけっこう狭いってことかな」
−あなたは少し微妙な立場にいませんか?ある時期、あなたはフランスにはエリックロシャンしかいないと言っていましたよね?
イ「そんな印象を与えてしまったんだろうな、僕が言いたかったのはちょっと違うんだけど。当時、僕に興味深い役を与えて
くれたのはエリックだけだった。「愛をとめないで」や「悲しみのスパイ」の話しがくるまで、それぞれ1〜2年のブランクが
あったんだ。で、僕はこの二つの役にすっかり夢中になっちゃって、他の役はどれもくだらなく思えたんだよ。だから僕は
あんなふうにロシャンへの思いを伝えたんだ。あれは、僕に好意を抱いてくれた人への好意の表れだったのさ。でも、今は
すごく満足しているよ、マリオンが「LOVE etc..」に誘ってくれたから。彼女とならいつでもまた一緒にやれる。それに今では
他の監督からも興味深い役がくる。でもあんな時期も必要だったのさ。僕も多分進歩したんだと思うよ。5〜6年前より
オープンになったし、人と会うのも熱心になったし」
−おふたりとも俳優としての滑り出しは同じような感じでしたよね?
イ「うん。最初の映画「愛さずにいられない」のおかげで、僕は確かに成功を知るチャンスを得たし、セザール賞ももらった。
でも、結局はちょっとすれっからしになって、そういう経験から離れるのさ。というのも、やがて映画を作るのはお金もうけの
ためだってことがわかるからね。無邪気さや素朴さを失うのさ。そして不幸にも、次の映画が同じ結果にならないと全てを
失ってしまったというイヤな気持ちになってしまうんだ。状況を立て直して、自分がこの仕事に就いた本当の理由を理解
するまでには時間がかかるんだ。演じることはいいことなんだ、ってね。もうこれからは2年も仕事をしないなんてことはない
と思うよ」
シ「私は「なまいきシャルロット」でセザール賞をもらったとき、無自覚だったかも....大喜びしたもの。でも、だからといって、
それほどのことでもなかったのよ」
ーこの仕事がしたいというしっかりした確信がなかったから.....
シ「ええ。まだ遊びだったのね。何日かたったら、セザール賞のことも忘れていたわ。誇りに思ったけど、まだ学校にも
通ってたし。でも、そのときにはもういろんなことが決まってたのね。「なまいきシャルロット」のあと「小さな泥棒」に出て、
父とも一緒にやって。恐がりもしないで、ひとつが終わるとまた別のをやったわ。次々とね」
−総じて当時のことをどう思いますか?
シ「まったく無邪気な時代だったわ。それと、愉快なね。ひとつひとつの作品に結びついた思い出もいっぱいあるし」
−いっぽうが仕事に入って、もういっぽうがそうでない時はどんな感じなんですか?
シ「必ずしも決まってないけど、確かに私は「悲しみのスパイ」にはあまり関わらなかったわ。出演もしてないし。でも、
イヴァンにとっては凄く大変な仕事だったわね。長かったもの。6ヶ月よ。しかも、撮影前の準備にもすごくかかってたし。
私はあの作品に参加してないけど、身近に感じてはいた。ある部分、欲求不満になったし。一方が撮影に入っているのを
観ると羨ましくなるのよ。顔一杯に喜びが広がってるから、自分のなかにもやりたいっていう欲求が芽生えるの」
−(イヴァンに)あなたは女優と暮らしているけど、その女優とはあまりうまくいかない若い男を主人公にした短編映画を
作りましたよね?
イ「その話しはシャルロットに話さずに書いたんだ。彼女はロンドンで「ジェーンエア」を撮影中で、昼間はぼく一人だった
から、あんなふうになったのさ。役者というのは酷い仕事だよ。毎日それを受け入れるってのは容易じゃない。時には感情を
押し殺さなくてはだめなのさ。だって、一緒に暮らしている女はスクリーンでみんなに裸を見せてるんだよ(笑)」
シ「バカね、そんなこと気にして」
イ「いや、そうだよ。気にするよ。当たり前さ。よく人にそういうことを言われるよ。ドワイヨンの映画のときなんか、シャルロット
は真っ裸で2時間もトマラングマンに抱かれていたんだ。辛抱するのも大変だったさ。親の家に帰ったとき、もしその映画
を観ていたら何て言う?息子を見る親父の視線に世間の目を感じるね。寝取られた男だと思われるんだ!あの短編の
アイディアはそんなところから生まれたんだ。そういうのって悲劇ですらないよね。だから僕はコメディにしたんだ」
シ「あなたからこの話しを聞いたとき、はじめ舞い上がっちゃったわ。女優と暮らしてハッピーな男の話だって言うんだもの」
−(イヴァンに)短編のあとは長編もやってみたくなりましたか?
イ「すごくやりたいと思ってる。役者たちを演出したり、監督するのは本当に楽しいよ。映画のどこが好きかっていうことが、
撮影をしているときにわかった。ロシャンが仕事をしているのを見てたら、やりたいっていう確かな気持ちが生まれたんだ。
いつかまた自分を語る必要が出てくるかも。つまり、僕がどんなに映画にされるのが好きかについて語る映画みたいなの
をさ(笑)」
シ「私にはそういう欲求ってないわ」
−自分たちの古い映画にをテレビでやるときは観ていますか?
イ「お互いに邪魔してるよ。僕は「小さな泥棒」を観たいけど、シャルロットは観たがらないのさ。もっとも、僕のはまったく
やらないからこっちの方は問題なし!(笑)」
−相手の映画ではどれが好きですか?
シ「「悲しみのスパイ」ね」
イ「どれか決めるのは難しいな。「残り火」の12歳のシャルロットを観るのも楽しいし、「なまいきシャルロット」の13歳も
いいね。誰かと暮らしていれば、相手の写真を見るのはいつも楽しいことだろ?子供時代のとかさ。それにどれもいい
話だし。君のかわいいポニーテールを見るのはとっても素敵さ。ベルナデットラフォンに向かってあの声で怒鳴ったり、
台詞のおしりに“ゥ”の音がついちゃうあたりも。「なまいきシャルロット」ならぶっ続けで20回だって観られる!最近の
だったら「アンナオズ」もすごいね」
−(シャルロットに)「アンナオズ」の失敗はつらかったですか?
シ「ええ。徹底的に悩んだわ。なぜって、ココロの奥には希望があったし、本当にいい仕事だったから。どっぷりつかって
いたのよ。「アンナオズ」のことは誇りに思っているわ」
イ「失敗するといろいろ考え直すよね」
シ「ええ。だって、みんなは私のせいじゃないって言ってくれるけど、私としてはそうも考えてしまうの。私を攻撃する人は
いなかったけど、映画に見所が足りなかったのは私の責任だと思うわ」
ー「LOVE etc...」の主題歌をうたうようにあなたを説得するのは大変だったようですね。
シ「とても苦労したわ。マリオンと作曲家のアレクサンドルデズプラは初めから私に歌わせるつもりだったの。で、私が
折れた、と。歌はとても好きだし、気に入らなかったらやめてもいいって約束してくれたから。そのあと録音の時、本当に
だめだと思っていったんやめたのよ。でも、みんながとてもがっかりしてるのを見たり、イヴァンの意見を聞いたりして、
もう一度録音を引き受けることにしたの」
−その、だめじゃないか、という気持ちはお父さんのレコードに参加したころからありましたか?
シ「いいえ、全然。父のプロデュースで父の歌を歌うのはとても嬉しかったわ。あんな喜びはもう二度と経験できないで
しょうね。とにかくあんなふうには......。あのあと、もう歌わないって決めたの。でも、[LOVE
etc...」では映画のためにやった
のよ。アルバムを作ることが目的ではなくてね!」
ーお父さんの家をミュージアムにしたいそうですね。
シ「ええ。どうしてこんなにすぐ知れ渡っちゃったのかわからないけど。まだ準備は全然できていないの。これはずっと私が
温めている計画なのだけど、時間がかかりそうね」
−ヴルヌイユ通りを歩いていると、いつも誰かしら家の前にいますよね?
シ「私が家のドアをあけて、そういった人たちに家の中を見せてあげようって気になった理由のひとつはそれなの。でも、
どうすればいいかわからないわ。だって、家は大きくないんだもの。ミュージアムっていう広さじゃないのよ」
ーご両親にたいする世間の見方は正当だと思いますか?
シ「私の理解は他の人が持っているようなものとはずいぶん違ってるけど、世間の人が私の両親について考えていること
には心打たれるわね。年月とともに、その見方は変わるけど、いつも感動させられていると思うわ」
ー役者同士のカップルの多くは神話になります。おふたりもそんなことを考えますか?
シ「たいして神話にならないカップルも結構いるわよ」
イ「僕たちみたいに(笑) 一緒に映画を作るまでにはずいぶんな時間がかかった、どうして僕たちに誰も興味を持ってくれない
んだろうって思ってた。でも、一緒に映画をやりたかったのは、神話みたいなカップルになりたかったからじゃない。冗談
にもそんなこ考えたことはないよ。でも、まぁ、今日そんなこと言われたわけだから、いっちょやってみるか?(笑)ほんとに
やりたいことはただひとつ、「LOVE etc...」みたいな素晴らしい映画をもっとたくさん作ること。愛する人と一緒にああいう
映画に参加できることってことは、本当に素敵なことなんだ」
TEXT BY ティエリクリファ&ピエールラヴォワニャ
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