シャルロットゲンズブールは唯一無二のロリータだ。「なまいきシャルロット」の危うげな思春期の少女や「小
さな泥棒」の不良娘はまさにハマリ役だった。「メルシーラヴィ」の一途さには思わず泣かされたし、「愛をと
めないで」の恋人を恋焦がれさせる役なんて、後光が差してまぶしいばかりだった。加えて故セルジュゲン
ズブールとジェーンバーキンの秘蔵っ娘という肩書き。だが彼女ほど羨望や愛情のまなざしを浴びながら、
スター特有の自意識を感じさせない人も珍しい。それになぜかいつも所在なく心細げだ。いったい何が彼
女をそうさせているのだろうか。新作では遂に「突然炎のごとく」のリメイクに挑戦するという21歳のじゃじゃ
馬シャルロットの、ひそかな苦悩とは。
まず何よりジャックドワイヨンの新作だ。「Amoureuse(=恋する女)」はあの「突然炎のごとく」の90年代
版とも言うべき作品である。これが現在のシャルロットだ。20歳の女性マリーは、ふたりの若者、アント
ワーヌ(トマラングマン)とポール(イヴァンアタル)に愛されている。彼女はアントワーヌを愛していて、
半年前から一緒に住んでいる。ポールに出会ったのはつい最近だ。彼はマリーに夢中である。彼女も惹
かれてはいる。彼女はアントワーヌの子供がほしいと思っているが、彼のほうはほしがらない。彼が望む
のは彼女だけなのだ。彼女の愛だけあればいいのである。一方ポールはすべてを望み、すべてを受け
入れようとしている。ふたりとも完璧で、甲乙つけがたい。彼女はひとりを手に入れるよりふたりをとる方
がいいのかもしれない。きっとこんなストーリーである。
今からシャルロットを訪ねてみよう。彼女はおもしろみのないパリのホテルのバーにいる。偉大なおちび
さんといった感じ。短く切った髪。すっかり新参の水兵みたいな格好。テニスシューズにパーカー、ジー
ンズにマリンシャツ。彼女は低い声で話し、ときおりとまどったような笑いをはさむ。意見を言うのを悪い
と思っているみたいに、「・・・・・と思う」とか「・・・・という気がする」という言葉を使う。ジッポのライターで
煙草をつけ(何度も)、煙草がすきなのかと訊かれると「香りが好きなの」と答える。紅茶を飲み(たくさん)
水を飲み(たくさん)、インタビューの間に質問する。「2分トイレにいっても構わないかしら」
そして礼儀正しい事に1分30秒で戻ってくる。エリックロシャン監督は彼女についてこういう。「彼女の
知性とプロとしての心構えには驚かされた。彼女のために大役を書きたくなった」そしてイヴァンアタル
は「一緒に仕事をする女性で、僕らに似てる人は初めてだ」お転婆娘が90年代を担う存在なのだろうか?
まぁ見てみよう。
−髪を短くしたのは映画のためですか?
「いいえ。これは「メルシーラヴィ」のすぐあとにきったの。もうあきあきしてたから、すっぱり切っちゃった」
−イメージチェンジをするため?
「似合わないと思ってたの、長い髪は。まるで子供みたいだったから。これで満足したわ」
−あなたはいつもテニスシューズを履いているんですか?
「実は私、すごく着こなしがへたなの。だから一番シンプルなものを着るのよ。つまり、わたしにとって一
番シンプルなもの。そうなると選ぶ必要もないの」
−アインシュタインと主義が同じですか。つまり、同じ縞のシャツを着ていれば、夜わざわざ着替える
必要がないと?
「まさか! それどころか、わたしすごく時間を無駄にしてる。だっていつもほかのものを見つけようと思っ
てるんだもの。でも見つからない。ほかの服も持ってはいるんだけど、全然着ない。結局そうなのよね」
−着こなしを知らないのは悩みですか?
「うーん、そうね。ときどき変えたくなるわ。でもばかげてる、自分の暮らしの中のことなんだもの。わたし、
自分なりのやり方を見つけたい。着てるもので私の中身がわかるわけじゃない。ただ他の物が見つから
ないってだけ」
−じゃあどんなふうになりたいんですか?
「すべてがもう少しシンプルだといいな」
−わざとシンプルにするのがいいわけ?
「ううん、わざとじゃなくて。ただそうのほうが、他の服装より悪くない気がするの。いつも思うのよ、もし私
が他の服を着ると目立っちゃうでしょ。あれこれ言われるのはぜったいイヤなの。こんなふうな格好をして
れば、みんなもう私がどんなかなんて気にしなくなると思う。もし私がスカートをはいて、ごく普通の格好を
したら、みんな気がつくんじゃないのかな」
−女らしさが足りないとは感じないですか?
「そうねぇ、女らしいとはとてもいえないわね。でも私がスカートをはいたらどんなふうになるかわからない。
脚が長すぎてどうしようもないわ。時々、女らしい人がうらやましくなるけど・・・」
−あなたにとってお母さんのジェーンは女らしく思えますか?
「ううん、昔ながらの意味では違う。でも私、あの感性と魅力はすごく好き」
−一般的な女らしさでなく、どちらかというと平凡な面も、理想の女性像となる場合があるでしょう?
「でも母の体つきはすごく女らしいと思う。胸はそんなにないけど、あんなスタイルをしてる人は他にはいな
いわ。でもほんとの問題は女らしさじゃなくて、むしろ若過ぎるような感じがすることなの。これ、いい意味
じゃないのよ。鏡で見ると私って子供みたい。そこが困るとこなのよ」
−ローリングストーンズの歌に「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」というのがあります。そのうちにうまくいく、
時はあなたに味方する、という歌ですが。
「それは女性らしい役についてのことだわ。私すごく長く待つことになるのよ」
−どうしていきなりそんなにやりたくなったのですか?
「別にとくに女性の役ってわけじゃないの。それはちょっとばかみたいでしょ。でも20歳とか、できれば25
歳くらいの重みがあったらいいな。無理なのはわかってるけど・・・・」
ー「Amoureuse」ではそういう役をやっているでしょう?
「ううん。映画の中の私ってすごく若い感じがする。シチュエーション的にはあんまり重大じゃないと思う
けど、みんな私にふたりの子供がいる役はくれないでしょ。らしく見えないもの」
−イヴァンはあなたの年と、実際のあなた、つまりあなたのふるまいとの間にズレがあると言っていま
すが?
「そうね。でもそれが年についてのものかどうかはわからない。ほんとは会話のせいなの。ジャックドワイ
ヨンの会話の作り方は45歳の人の話し方よ。あれは確かに、20歳の人の会話よりは大人の会話だわ。
でももうそれほど気にならない。 とはいっても彼女の場合・・・あら、ばかなこと喋るところだったわ」
−おや、いいじゃないですか、ばかなことだって。
「だめだめ。これは話したくないわ」
−ドワイヨンはマリーの役作りについてあなたに意見を訊きましたか?
「役というものがあったのかしら。つまり、彼との仕事では、役作りをしているのかどうかわからないのよ。
実際のところ、彼は私と違うものを作れとは要求しなかった。彼はその点については全然はっきりしてない
の。というか、無意識にそうしちゃったのかしら。とりわけ、彼はみんなが何かをでっちあげるのを嫌がった。
私たち自身のようなシーンを演じさせたかったの。そういうことだと思う。みんなそれぞれの人生を持ってい
るわけだから、実際には私たちを描いてることにはならないけど・・・」
−あなたはマリーを理解していますか?
「すっかりってわけじゃない。彼女はややこしい人間だと思う。不安なのはわかる。心配ばかりしてる人間
だから。考えてることを言おうとしない。したいことを言おうとしない、それはわかる。でも長くはもたないわ
ね、まるっきり」
−イヴァンは彼女のことを気をそそる女性だと言っています。あばずれではあっても。あなたは彼女が優
柔不断でも魅力的だと思いますか?
「ううん。私は彼女があばずれだとは思わないの。彼女は何かの陰に隠れてる。彼女が魅力的なのは事
実だけど同じような女性はたくさんいると思う。結局それが必要なのよ、そんなに悪いことじゃない。でも
優柔不断が先に立つのよね。いやでも多少はそうなるものよ。認めたくなくても、人間って他人の気を惹
きたいものだわ。それってごく普通だと思う」
−どちらかというと、あなたは男性の立場より彼女の立場に近いでしょうか?
「私はイヴァンに近いと思う。だって、少しでも頼れる人って彼しかいない気がするの。彼は夢を持ってい
て、それを追いかけてる。一番シンプルな人だわ。だから私が彼に一番近いかどうかはわからない。私、
自分がすごくシンプルだとは思わないもの」
−家族で仕事をするほうが楽ですか?
「ううん。経験から言って、その方が難しいと思う。だって、プロとしての立場になかなかなれないもの。
人生にはどうしてもいろんなことが起きるから、あまりシンプルにはいかない。でも同時に楽といえば一
番楽かもしれないんだけど」
−永遠の青春を望む人っていますけど、あなたは経験のために永遠の大人でなければならなくなった
のですか?
「あなたは私の人生のことを言ってるの?それとも私の出た映画のこと?」
−両方です。
「「Amoureuse」では年の問題はないわ。マリーは20歳だし。それどころか、私はいつも若い女性の役を
やっていかなきゃいけないような気がする。みんないつも、私は15歳みたいだって言う。それがすごく怖い」
−実際のあなたの生活でも?
「ううん、私自身の生活の中では、あんまり若くはなれない。自分が守りたいものを守るためにはね。そして
とにかく、守らなければならないものは守ってきたと思う。その必要なものっていうのは、間違いなく私が自
分の意思で守ってきた子供の部分がほとんどなの。でも同時に、私はかなり色々な経験をしてる。その経験
というのは、たぶん、他の21歳の人は知らないんじゃないかな。でもそのせいで私の発達が早かったかど
うかはわからない」
−こんなふうには言えませんか?パパはヒーロー、ママはスター、パパの教育は素晴らしい。その子供は
有名になる運命しかない。
「他のものより今の道に進む可能性は多かったでしょうね。私はああいう両親を持ったから、こういうことが
できるの。それが運命だとは思わないけど。それに、私の兄弟はこういう仕事をしてないわ」
−マイケルジャクソンみたいな人が生まれていた可能性もありますね。現実から遊離してしまう人。
「そうね(大笑いする)。そんなふうになれたらいいわね。現実から遊離するの。信用されるために生きる
よりずっと簡単でしょうね。その問題については前より自分でも考えるようになってる。よくわからないん
だもの。私に能力がなくて、両親が私を恥じるようになったらって、怖くなることがよくある。両親と同じこ
とはできないかもしれない。それもかなり可能性がある・・・・」
−才能のある人に囲まれているのは大変ですか?
「そうね、大変ね。でも結局は私は才能のある人の中にいるんじゃないの。私にしてみれば、両親なんだ
もの。私は2人に従っていたけど、それは大変なことじゃないのよ。いつも比べられてる。でも私が一番
比べてるのよね。がっくりすることもあるわ。両親みたいにはできないって気持ちがいつもある。満足する
ことなんかないんだろうな。でもそれって普通でしょ?」
−才能のある人ははじめは不満なんじゃないですか?
「うーん、でもそれって重荷だわ。ふたりを尊敬しないでいられれば、多分そんなにつらくないんでしょう
けどね」
−彼らは素晴らしいですよ。だから尊敬するのは当然でしょう。あなたは他の人からも信頼されていま
すけど?
「だからこそ、ますます大変になるのよ」
−いつもそんなふうなんですか?
「いいえ、いつもじゃない。でも親に比べるとずいぶん批判されてる・・・・」
−自分が年相応だと思いますか?
「ええ、もちろん。21歳の女だわ」
既にかなりの経験をしている21歳の女性ですね?
「そうね、やりたくないこともあったしね」
−たとえば?
「あら! そんなこと簡単にわかるじゃない。そうは言っても、経験できたってことには満足してるけど。
私のやったことがどんなものであろうとね」
−また歌いたいと思いますか?
「いいえ、もう全然歌う理由がないわ」
−ヴァネッサパラディはあなたと同じ世代ですが、彼女をどう思いますか?
「そうね、私はみんなと同じように彼女を観てる。あれほど有名な人に対して、私が違う見方をしてると
は思わない。彼女はスターなの、だからスターとして観てる。それだけ」
ー音楽は聴いていますか?
「いいえ、もうそんなに聴かない。一番聴くのはクラシックだけど。それだけはかなりよく知ってるの。
・・・なんてほんとはどうだかわからないけど」
−ジェーンやセルジュのレコードは?
「ううん、まだわからないわね。そのうちね。でもすぐには・・・」
ーふたりのレコードは聴くんですか? 「ええ」
−好きですか? 「もちろん」
−聴くとどんな感じがしましたか?
「実は母のレコードは小さいときに聴いていたんだけど、ずっと母だってわからなかった。知らない歌手
だと思ってた。聴くものにそれほど注意してなかったし。でもみんなが聴くように母の声を聴いてると、自
分がその声をすごく好きなのがわかった。母がやってきたことが好きなんだって。最近母のツアーを
観たの、トゥールズだったと思う。それでわかったの、どういう点で若い人たちー若い人がすごく多かった
のよー彼らにとってどういう点で母が重要なのか、どういうところで母に備わっているものが呼び起こされ
るのか。うっとりしたわ。私すごく・・・・自慢するわけじゃないの、私そういう人間じゃないし、でもやっぱり
誇らしく思った」
−それに若者はセルジュのことも好きですよね?セルジュはまぁ才能があったからこそ英雄になったわ
けですがそういう父親をどのように思い出しますか?
「みんなに愛されていたんだと思うと嬉しくなるわ。だってそのために父は生きてたんだもの。父はみんな
のそういう愛のおかげで生きていて、それを誇りにしてたわ」
ーゲンズブールの娘であるあなたは、ゲンズブール派的なところがあると思いますか?
「そんなでもないみたい。多分それは彼の世間に対する顔だから。あんまりそのことは話したくないわ。
でもあなたがそういうことを訊くのはよくわかる。ただ、私は今すぐには答えられない気がするの」
−それでは最後にくだらないことを訊きますが、彼の歌の中であなたが好きな歌は何ですか?
「ひとつを選ぶのは難しいわね。でも今浮かんできたのがあるわ。レコードには入っていないんだけど、
コンサートでやってた。
「Depression au-dessus du jardin」っていうの」
−あなたは普段内気な方だから息苦しくなるんでしょうか?すごく外交的だとかいうわけじゃないでしょう?
「いいえ。でも、やっぱりそうかもしれない。すごくよく知ってる人と一緒だと私全然違うわ。でもあんまりよく
知らない人と一緒だとどういうわけか話が進まなくなってしまう。結局それで私もうんざりするし、相手も
うんざりする。だから違うふうになれたらいいと思うわ。いつそうなれるのかわからないけど。遠慮してしま
うせいだと思う。どうしてもできるだけ内側に籠もっていようとしてしまうー違うようにできないーあまり表面
に出さないの。何度も壁にぶつかったわ。でも前よりは少なくなってきたけど」
−あなたは自分で身を守っているのでしょうか?
「ええ、すごく警戒してる。それで私、損してるんだけど。自分でわかってるの」
−そのためにあなたは孤立していますか?
「ええ、当然そうよ」
TEXT BY Alain Wais
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