今年37歳を迎えるシャルロット・ゲンズブールがかつてないほど輝いているのは疑う余地がない。女優としてフランス国内

のみならず、トッド・ヘインズやジェームズ・アイボリー作品などインターナショナルなキャリアを伸ばす一方、20年ぶりの

アルバムを大ヒットさせてカリスマ性を増し、バレンシアガのミューズとしても活躍している。しかも家庭生活も安泰。

夫のイヴァン・アタルも監督、俳優としてキャリアを広げ、10歳と5歳になるふたりの子供はすくすくと育っている。

シックなスーパー・キャリア・マザーの彼女は、パリジェンヌの羨望の的だ。

実は昨年夏から今年にかけて、彼女はハプニングに見舞われた。水上スキーでの転倒がもとで内出血し、緊急手術。

それを無事に終えて元気になった頃に、今度は新作「アイム・ノット・ゼア」で共演したヒース・レジャーが不運の事故で

亡くなった。だが、そうしたアクシデントを乗り越えた今目の前にいる彼女は、以前も増して誠実で、自然な輝きを放って

いるように見える。彼女の自宅に近いお気に入りのホテルの一角で、リラックスした表情でキャリアと家庭生活、子育て

のこと、そしてヒースの思い出などを語ってくれた。

ーお元気そうで安心しました。

「ええ、おかげさまでもうすっかり大丈夫よ」

ートッド・ヘインズ監督の新作 「アイム・ノット・ゼア」を拝見しました。役者全員がパーフェクトで、素晴らしい傑作

ですね。

「ありがとう。今となってはヒースの死がとても痛ましいわ。突然すべてが昔の出来事のように、もう存在しなく

なってしまって。撮影中わたしたちはずっとボブ・ディランのアルバムを聴いていたんだけど、映画が終わった後

もわたしはそれ聞き続けていたの。だから音楽が映画と現実の橋渡しとなって、本当の人生を一緒に過ごしたか

のような気持ちだった。もちろんそれは映画の中の出来事にすぎないけれど、それがいきなりドラマティックに

終わってしまった印象なの」

ー撮影中はあなたがいちばん彼と過ごした時間が長かったと思うのですが、そのときの印象はどうでしたか?

「撮影の間、ヒースはとても優しかったわ。ヴェネチア映画祭で再会したときはもっとユーモラスな雰囲気だった。

古びたソフト帽をかぶってミュージシャンみたいな格好して。複雑な問題を抱えたカップルを演じて撮影中は

お互い役に入り込んでいたから、彼の印象も役柄そのものだったけど、ヴェネチアの印象は違って、実はとても

面白い人だなと思ったほど。だからいまだに信じられない気持ちなの」

ー独創的な作品ですが、監督から話があったときの印象は?

「ボブ・ディランの物語と聞いてすごく興奮したわ。でも送られてきた脚本を読んでびっくり。ディランのさまざまな

時期を表す異なるキャラクターが交互にでてきて、映像なしではすんなり理解できなかった。いったいこれは何?

って頭を抱えてしまったの(笑)。彼の音楽自体はかなり前から聴き始めてずっと好きだったけど、プライベート

な領域のことは知らなかったし。でもトッドには、スージー・ロトロ(元ガールフレンド)と(元妻の)サラ・ラウンズを

混ぜたような架空のキャラクターだから、自由に演じてほしいと言われて。この映画は普通の伝記ではなく

ディランの謎めいたところをそのまま生かしている。それがわたしの好きな点。むしろ監督というアーティストの

手によって描かれたもうひとりのアーティストへのイマジネーションあふれるビジョンね」

ーあなたの演じるクレールは、結婚して子供を持った後、自分のキャリアを諦めます。あなたとは異なるタイプ

ですが、彼女をどう分析しますか?

「彼女が絵を描くことを諦めたのは、結婚して子供を持ったからだけじゃなく、あまりに才能のあるパートナーを

選んだことも大きかったと思う。そういう人を間近で見て、自分への自身をどんどん失っていったんじゃないかしら。

たとえばわたしとイヴァンの場合、お互い俳優同士だけどそういう問題はないわ。でもこれが、イヴァンが監督で

彼の作品に私が出るとなると事情が変わってくる。彼を監督としてとても尊敬している分、自分がついていけるか

心配になってしまうのね。」

ーでもイヴァンの監督作品に出ることは、あなたにとって特別な喜びをもたらしてくれるのでは?

「それはもちろん。愛する人の作品に出演できることは、俳優として期待するもののすべてが叶うようなものだから。

それに、彼の俳優に対する接し方をとても尊敬している。演じる上で自由を与えてくれるけど、同時に自分のビジョン

があって俳優をそこに導いてくれるから。彼と仕事をしていると、自分の背中を押してもらっている気がするの」

ー子供を持ってよかったことは?

「ポジティブなことばかりだったわ。まぁすべてというのは大袈裟にしても。子供たちといるときがいちばん自分が

生き生きとしている気がする。」

ー演技の喜びとは別ですか?

「ええ!仕事のときとは違って、童心に帰れる。よく人から「子供を持ったら責任が増えて大変だよ」と聞かされて

いたけど、確かにそれもある反面、実際子供たちと一緒にいるとそんな心配は吹き飛んで、楽しい気持ちしか

わいてこないのよ」

ーあなたは以前、ご両親のジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブールは、子育てに関してのんきで自由奔放

だったと言っていました。それはご自身の子育て術にも影響していますか?

「ええ、とても。わたしの両親は子供の心理を気にせず行き当たりばったりで、それは良いこととは言えないけど

(笑)、自由奔放に育ててもらったことは良かったと思っている。子供時代は70年代という時代のせいか両親とも

夜遊びで不在なことが多くて、母は妹のルーを育てるときのほうが家にいることが多かった。それでも、両親

が楽しんでいる様子を見るのは、子供にとっていいものよ。どちらも見てきたわたしは、両方の良さを併せもって

子供を育てていけたらいいなと思うわ」

ー女優という仕事は移動も多く、子育てとの両立はハードです。長期撮影のときはどうしていますか?

「たしかにそれは難しい問題ね。一緒にロケに連れて行くこともあるけど、それがいいことだとは限らない。

ふだんの学校生活や友達から離れ、父親不在で何週間もすごすわけだから。もちろん小さい頃はいろいろな国

に行ってほかの子供ができないようなことを体験できるのは特権だけど、彼らにとっては普通の子供たちと

同じようにすごす権利もある。幸いイヴァンは子供の面倒をよく見てくれるし、素晴らしい父親だから助かって

いるわ」

ー子供たちの将来に関してはどう考えていますか?

「自分なりに情熱の持てることを見つけてほしいと思っているの。親のやっていることに影響されたり、それが重荷

だと感じてほしくないわね」

ーもし俳優をめざすと言ったら?

「正直怖いわ。だってこの職業はとても不安定なことを知っているから。私の場合12歳からこの仕事をしているから

あまりに若いときにはじめることがどんなに大変かを知っている。ラッキーなことに私の場合はうまく行ったけれど。

俳優の仕事はつねに他人から望んでもらわなければ叶わないもので、それが最大の弱み。仕事がない時期が

続くとどんどん自分自身に懐疑的になっていく。だから強くないとやっていくのは危険よ。そういうリスクを、正直

言って子供たちに背負ってほしくない。でもわたしの母は、この仕事についてポジティブなことしか言わなかった。

女優をやれることがどれだけラッキーかいつも言っていて、それはそれで本当だと思う。ただ人によってはいろいろ

な見方ができるでしょう?わたしは自分の子供にポジティブな面だけを伝えていこうとは思わない。わたしが悩んで

いる姿を隠すつもりはにあし、良い面も悪い面も伝えて、自分なりに判断してほしいと思う。」

ー二児の母となった今でも、素晴らしいスタイルを保っていますね。どんな努力をしているのですか?

「一人目のベンを生んだ後にジムに通い始めたの。それ以来ずっと続けていて、週に2回通っているわ。出産後

は自分のスタイルを維持することとか、考えたこともなかったけど、確かに生んでからは気にかけるようになった。

今ではジムに行くことも習慣になっているから、全然苦にならないけど」

ー実はイメージに似合わず、かなりスポーティなタイプですよね?

「ええ、スポーツは大好き(笑)。でもあいにく、スキーはついていないわね(笑)。2年ぐらい前に脊髄を一本

折って3ヶ月病院にいたし、昨年は水上スキーで転倒して、頭を打った。仕事と同じで、一度やり始めると徹底

的にやらないと気がすまない性格が災いしているのよ」

ー最後に、ハーパース・バザーの読者は働く女性も多いのですが、彼女たcっへ何かアドバイスを。

「といっても私自身、まだまだ試行錯誤している段階よ(笑)。ただいえることは、完璧な人間なんていないのだ

ということ。パーフェクトな親はいないということをまず自分自身で受け入れて、自分なりに努力していくことが

大切だと思う。」