実際の戦場からファッションの最前線に到達するにんはとてつもなく長い行列が必要だが、シックでシャー

プな
トレンチコートは確かに その実用性から魅惑に至る旅を成し遂げた。二度の世界大戦中、トレンチコー

トを着用
していたのはイギリス軍の将校たちだった。そして いま、オリジナルのベージュのウォータープル

ーフ・ギャバジン
らランジェリーのように体を包み込む柔らかなサテン素材まで、私たちは さまざまなトレ

ンチを身に着けることが
できる。

いかに着こなすかというコードー軍隊式にきっちりとベルトを締めるか、あるいは後ろでルーズに結ぶか

も、映画やハイファッションを通じて構築されてきたトレンチの魅惑の一部なのだ。今シーズン、デザイナ

ーたちはこぞってトレンチコートを取り入れた。たとえばバーバリー プローサムの
クリストファー・ベイリ

ーは、同ブランドのシグネスチャー・スタイルを優しく肩をなでるようなミニケープへと変身
させたり アイコ

ン的なフルレングス・コートにインクの染みのようなプリントを飛び散らせてみせたりした。カール・
ラガー

フェルドは、ツイードのブレードのトリミングが施された少し思わせぶりなシャネル版トレンチを作り出した。


彼のミューズ、アマンダ・ハーレフはトレンチを着る唯一の方法は 「下には何も身に着けないこと。体に

巻きつく
ような感覚が好きなのよ」と言った。

ラガーフェルドは、あのコートは「一種のジョークだったんだ。シャネルの
人たちがいつもトレンチを作っ

てくれと言っていたからね。ブレードを選んだのは私だが、作りながらみんなで
大笑いして楽しんだよ」

と言う。「あんなにヒットするとは思っていなかった」(ケイト・モスがその同じトレンチを
官能的に着こな

した写真が発表されてから火がついたのだ)

2000年にルイ・ヴィトンで発表したロゴ入りトレンチがやはり大ヒットとなったマーク・ジェイコブスは

初めて
スタイリッシュなトレンチコートとであったのは映画のスクリーンだったと回想する。1964年の

映画「シェルブール
の雨傘」のカトリーヌ・ドヌーブである。元モデルのイネス・ドゥ・ラ・フレサンジュも

ジェイコブスと意見を同じく
する一人だが、彼女はさらに、故ロミー・シュナイダーが「はめる/狙われた

獲物」で披露したビニール素材の
トレンチコート姿を、数ある印象的なスクリーンイメージの中でも特筆

すべき存在としてあげている。最近では
ミュージカル映画「8人の女たち」でヴィルジニー・ルドワイヤン

がトレンチに特別な魅力を与えていた。
なにもフランス人でなければトレンチが似合わないということも

ないだろうが、確かにフランス的なパーソナリティは
プラスになるようだ。

シャーロット・ランプリング(イギリス出身だが、自らはフランス人を名乗っている)とシャルロット
ゲンズ

ブール(母親はジェーン・バーキン、 父親はフランス人俳優でポップスターの故セルジュ・ゲンズブール)

も、
このベルト付コートの大ファンである。「トレンチを着ると本当にいい気分になるわ」とランプリングは

言う。

「とても中世的なアイテムなのに、ウエストや脚のラインが出るから女性らしさも感じさせる。トレンチコ

ートはミステリアスね。そして、好きなだけセクシーになれるけど、決してチープにならない究極の控え

めさの表現なの」

来年60歳になるランプリングは、彼女とトレンチとの恋愛関係は1960年代のロンドンのブティック「BI

BA」から始まったと語る。その後、彼女はフリーマーケットで掘り出し物を買いあさったが、その中には

仕立てのよいクラシックなトレンチや、毛皮の裏がついたメンズものもあった。

「サンローランの、サテン素材のブラウンのトレンチも買ったけれど、それはちょっと数のうちには入ら

ないわね。トレンチはやっぱりギャバジン素材であるべきだと思っているから。そして、必ずしもバー

バリーじゃなくてもいいけど、オーセンティックなブランドのほうがいいわね」

32歳のシャルロット・ゲンズブールの場合、トレンチコート好きは遺伝子に組み込まれているようだ。

「おかしいわよね。物心ついてからずっと トレンチを着たいと思ってたんだから」 そう彼女は言う。

「父がビデオクリップの中でトレンチを身につけていた姿を強烈に覚えているの。でも、5,6年前まで

は、まだ私には
着られないと思ってた。ともかくある一定の年齢になるとか、そういう覚悟が必要だっ

たわ。トレンチコートが本当に
洗練された存在だったからかもしれないわね。パリっぽくて、映画的で」

そんなゲンズブールが一大決心をして購入したのは、シーズンやオケージョンを問わず、どこに

でも着ていける2着の
バーバリーのトレンチコートである。しかし、

「トレンチそのものだけじゃないの。それを身にまとうときのノンシャランな
流儀が問題なのよ」 

と言うランプリングと同様にゲンズブールも次のような意見の持ち主だ。

「私の考えでは、トレンチは着倒さないとダメ。しわくちゃで体になじんだ感じがいいのよ。私なんて、

ジーンズにもドレス
にもあわせてしょっちゅう着ているから、ほとんど制服のようなものね」

一方ランプリングは、ジル・サンダーのフロアレングスのトレンチコートをいまでも夢に見る。

「ジルがくしゃくしゃに丸めるように
して着てって言ったのよ」とランプリングは言う。

「だから本当にそうしたの。なのにそれをユーロスターの中におき忘れ
ちゃって、本当に落ち込んだわ。

あのトレンチの件ではいまだにみじめな気分のままよ」

ランプリングとゲンズブールの共通認識は、バーバリーの最高経営責任者ローズ・マリー・ブラボー

のヴィジョンを指示する
ことになった。

「トレンチは機能的で、すべての世代にとってシックなもの」と彼女は言う。「それは、ごくまれにしか登

場しない
存在なのよ。つまり、クラシック・アイコンだということ」

バーバリー プローサムのベイリーもトレンチなら男女ともに着ることが可能だし、実際、交換可能でも

あることを強調した。

「きわめて実用的な衣服で、そのデザインは純粋に機能的なのにファッショナブルなアイテムになった

んだ。ジーンズの
ようにね。それは男の子と女の子のための、ジェンダーレスなものだ」

それにしても、質実剛健なアウターウェアが、いかにしてセクシーな魅力を発散する服へと変貌を遂げ

たのだろうか?
その橋渡し役を担ったのは映画だった。戦後の映画は戦場をスタイリッシュに表現する

トレンチを着こなしたヒーロー
たちのーあるいは少なくとも主役の男性のーイメージに満ちていた。そし

て、それがジェンダーをクロスオーバーした
瞬間は、マレーネ・ディートリッヒが軍服を流用したときに

やってきたーベレー帽のしたの細く描かれた眉と、トレンチの下
からのぞくナイロン・ストッキングである。

それはすぐさま、性改革における典型的なスパイルックになった。
1970年代はレインコートに真紅の

口紅とヴェロニカ・レイク風のヘアスタイル、ハイヒールを合わせ、男性性と女性性が
故運財している

グラマラスを作り上げたイヴ・サンローランを筆頭に、さらなる両性具有的スタイルが誕生した。

それは
永遠に持続するだろうファッション・イメージであり、ヘルムート・ニュートンの写真の激しい

官能性にも通じるものだ。
富む・フォードもこの時代を超越したアイテムが持つサブリミナルな力を

知っている。

「トレンチコートはセクシーだと思わないよ」とフォードは言う。「女性が男のトレンチを着ているって

こと、そして彼女がドアを
ノックしたときに想像すること。彼女は下にははにも身に着けていないに違い

ない、それがセクシーなんだ」

1966年の主演映画「昼顔」以降、冷ややかな美貌のうちに秘められた激しい情熱の代名詞のよう

なカトリーヌ・ドヌーブは
トレンチコートとの関係は隠し立てしようとはしなかった。彼女の場合、あくま

でもベルトは伝統的にウエストのところで
きっちり締めて、ハイヒールに合わせるのが定番スタイルで

ある。

「軍服はどれも強くて迫力があって、だからそれに根ざした男性っぽさを持つトレンチが大好きなのよ」

とドヌーブは言う。

「ジャン・ポール・ゴルチェのトレンチドレスを持っているけれど、それを着ると、あの下に何も着ない感覚

が味わえるの。
とてもエロティックよ」

多くのフランス女性がそうであるように、ゲンズブールもまた、女がトレンチを着ることで作り出される

くびれたラインを
強調する傾向がある。しかし、ベルトきっちり型のほうが魅惑的だと考える女性たちと、

それを野暮ったいと感じる女性たち
の間には常にファッションバトルが繰り広げられている。ファッショ

ナブルな50年代ルックがお望みなら、ベルトは後ろで結んで
(ギャザーを後ろに寄せて、フロント・パネ

ルをフラットな状態にする)、シンプルなトップとペンシルスカートを少しのぞかせる
のがおすすめだ。

最後に、トレンチをスーパーシックに着こなす秘訣は?田舎のレディにならないように、70年代アー

バンな感覚の細身のシェイプを探すこと。フレアパンツやほっそりとしたドレス、
素足に短め丈のコー

トを合わせること。

そして、ベルトはさりげなくサッシュ状に結んで、決してバックルには通さないこと。要は、なにかの拍

子にコートの前が
はだけてしまうかもしれない状態を保つことが、トレンチが発散する魅惑を形成する

重要な要素なのだ。