シャルロットが夫であり俳優・監督のイヴァンと共に来日。話題は2人が出会って10年目に共演し、フランス

大ヒットした 新作「僕の妻はシャルロット・ゲンズブール」である。
パリに住むスポーツ記者のイヴァン。彼は

ごくごく平凡な男。たった

ひとつを除いては。そう、彼の妻は「女優」
だったのです...。イヴァンの妻であり、フランスきっての人気女優で

ある シャルロットを演じたのはフランスの宝、
シャルロット・ゲンズブール。2人は「愛を止めないで」で初共

演して以来、 プライベートでも良きパートナーである。
絶妙なニュアンスの演技がいつも心に残る実力派

俳優イヴァン・アタル。

彼が長編映画の初監督に選んだのは
コメディだった。テーマは人気女優を妻に持った普通の男の苦悩。

妻の仕事は尊重したい。でもこの嫉妬、不安、
自分の存在意義....あぁ....。

これがめっぽう面白いのだ。ストーリーは明快、ギャグは軽妙、演技は的確....コメディ映画のまさに王道

である。この
作品は 一部でウディ・アレン的ともいわれているが、実際イヴァンはウディ・アレンやビリー・

ワイルダーを尊敬している
と名言し、 彼らに影響を受けたことを隠さない。

2人がレコード店に入る場面で、(昨年亡くなったジョー・ストラマー追悼の意味で)クラッシュの「ロンドン

コーリング」が
鳴る 場面などにも、素直で若々しい風通しの良さを感じる。インタビューでの彼の喋り方は

映画の「イヴァン」と同じ。頭の回転の 速さとユーモアセンスの的確さが気持ちいい。
フランスにもこんな

オトコがいるんだなー。

イヴァンは1965年生まれで、私の1歳年下。話せば話すほど、同世代の「映画オタク」な感じがビンビン

に伝わってきて、
ゴールデン街で飲んだら朝まで話せそうだ。そして、それを微笑んで見ているシャル

ロット。生まれながらにフランス
映画、 いやフランスそのものを「背負わなければならなかった」彼女の

周りには、今までこんなオトコはいなかったの
だろう。この作品にはフランスの持つある種の「重さ」がなく、

しかしやっぱりフランス映画なのだ。観ていると、フランス映画の
あらゆるカップルの歴史を思い出す。

ヴァディム&バルドー、ゴダール&カリーナ、カラックス&ビノシュ....この映画は
フランス 映画のカップル

史へのオマージュにも見える。


―監督がパートナーの女優を主演にして映画を撮る場合、付き合い始めのパッショネイトな時期である

ことが多い
のですが、

この映画は、お2人が付き合い始めて10年目に撮られていますね?

イヴァン「10年目の夫婦間の「セラピー」の意味もあったかな。それは冗談で、5年前にプロデューサ−に

この映画を
持ちかけられたとき、シャルロット主演のこの物語しか浮かばなかった」



―この映画ではお2人の役名は実名ですが、観た人たちから「どこまでが本当なのか?」と聞かれる

ことが多くて困惑
されたとか?

イヴァン「そういう反響が大きかった。でも僕はドキュメントなんて撮ったつもりはないからね。これは

映画なんだそれ
に実名 といっても、シャルロットの名字はぼかしているんだよ。名字を言うときはそこに

微妙に音をかぶせたりね」

シャルロット「でも友人たちは、この映画にはとても「私たち」が出ているというわ。私も「自分の役」を

演じて、時々混乱
する ことがあったけど、今はそれを楽しめるまでになったの」



―撮影が終わって家に帰っても一緒というのはどんな気分なんでしょう?

シャルロット「家で、その日に撮ったラッシュ(編集前のフィルム)を見るなんてことは初めてだったから

面白かった。
彼の 監督ぶりを真近で見て、尊敬しなおしたり。私たちよく言い合ってたの、2人が出会って

からこんなに働いたこと
あるかしら? って(笑)。とにかく24時間みっちり一緒にいて、夫婦の絆もさらに

深くなったと思う」



―イヴァンを嫉妬に狂わせることになる劇中映画の中で、シャルロットはなんとスチュワーデスに扮する

のですが、
フランス でもスッチーは男の夢なんですか?

イヴァン「そうだよ!男の普遍的な嫉妬を描きたかったから、シャルロットからいちばん遠い制服を着せ

ることで彼女
の持つ意味を薄めて、さらにその効果を狙ったんだ」



―劇中映画の相手役にテレンス・スタンプを選んだのは? 嫉妬の対象だったら、若くてハンサムな男

優でもよかった
気がするのですが?

イヴァン「やっぱり、シャルロットが尊敬できる相手じゃないとダメだからね。男はそれに嫉妬するんだ。

それに若くて
ハンサムな男優だと、実際にシャルロットがそっちに行ってしまいそうだから(笑)。その微妙

な配役には気を使った」



―この映画はアメリカでリメイクしても面白そうですね。トム・クルーズとニコール・キッドマンで見たかっ

たです
(イヴァンはテレビでトムのフランス語吹き替えをしていることでも有名)。

イヴァン「すでにアメリカでリメイクが決まったんだよ。誰が演じるかは未定だけど。でも、アメリカ人にこの

繊細な
物語が取れるかどうかは疑問だな(ニヤリ)」


―お好きな映画の中のカップルは?

シャルロット「ウディ・アレンとダイアン・キートン、ジョン・カサヴェテスとジーナ・ローランズ....たくさんいるわ」

イヴァン「僕の次回作もまたシャルロット主演の物語にしたいと思ってるんだ」



―ラスト、シャルロットが「妊娠した」とおなかに詰め物をするシーンはゴダールの「女は女である」への

オマージュ
に思えたのですが?

イヴァン「その作品は見ていない。そんなシーンがあるんだ....それは偶然だな。うん、じゃあそういうことに

しておこうか」



―最後に日本のファンのために、シャルロットさんの美容の秘訣を。

シャルロット「やっぱり水を飲むこと。それから、いつもドキドキしていることかしら。このドキドキは「イヴァ

ン監督に
いつも見られてる、脅かされてる」って意味のドキドキね(笑)」


photo/shigeo shidara  text/maki shinozaki